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「こども若者シェルター」のガイドライン策定に向けた課題をまとめました

作成者: 高松陽子|2024/07/30 2:11:44

issuesの高松です!

こども家庭庁は今年度、自治体が「こども若者シェルター」の整備に費用補助する取り組みを始めました。しかし、こども若者シェルターの運用には統一したガイドラインがありません。そこでこども家庭庁では、ガイドライン策定に向けて民間のシェルター運用事業者や専門家を含む検討会を立ち上げています。2025年3月に取りまとめる予定で議論を進めている最中です。

この記事では、検討会でどのような課題が上げられているか、また民間シェルターで実際にどのような運用がなされているかをご紹介します。

 

こども若者シェルターとは?

こども若者シェルターは、家庭に居場所のないこどもや若者が宿泊できる施設です。児童養護施設や一時保護施設への入所を望まない、または20歳以上で既存の施設に入所が難しい若者を支援します。

こども若者シェルターのガイドライン策定の背景には、ニュース等でも話題になった歌舞伎町(東京都新宿区)の「トー横キッズ」の存在があります。家庭や学校などの居場所を失ったこども・若者が集まり、犯罪に巻き込まれる事件が多発しています。こどもや若者が安心して過ごせる新たな居場所作りが課題でした。

こども・若者シェルターのニーズは高くなっている

民間シェルターに行ったヒアリング調査では、「こども・若者シェルターへの入所依頼はコンスタントにあり、ニーズの高まりを感じられる現状がある」と意見が寄せられました。

シェルター希望者がコンスタントにいても、定員の制約から入所を制限している状況も明らかになりました。

 
利用者は100%家族関係に問題を抱えている【第1回検討会】

民間シェルターに行ったヒアリング調査では、シェルターにたどり着いたこども・若者全員が「家族関係が良好でないと自覚している」という結果が明らかになりました。その背景には親からの虐待がありました。

 

入所時の対応の対応における課題

(18歳未満の場合)親権者などへの対応

こども若者シェルターに関する検討会における主な検討事項では、以下の項目が課題に上がっています。

・親権者等への連絡方法(連絡の必要性、同意の取得、連絡内容、方法、タイミング、連絡主体)
・こどもが親権者等への連絡を拒否した場合、シェルター利用の緊急性を考慮した適切な対応とは何か
・親権者等がシェルター利用を拒否した場合、家庭状況(虐待の疑い等)を考慮し、シェルター利用が必要な事例にどのように対応するか(例:一時保護委託の活用)
・親権者等からの面会・通信の要請にはどのように対応するべきか

民間シェルターでは67%が同意を必要としていない【第1回検討会】

「こども・若者の居場所の確保に関する実態把握のための調査研究」で、民間のシェルターでは、未成年者の入所における保護者の同意は以下のように対応していました。

・必要としていない(67.4%)
・一定年齢(※)以下のこどもについては必要としている(21.7%)
・すべての場合に必要としている(10.9%)
※ 「15歳」、「17歳」以下

同意を必要としていない理由は、以下のような意見が寄せられました。
・未成年者は一時保護委託として入所しているため
・すべてのケースについて児童相談所に通告しているため
・親の居所や連絡先が不明
・親と没交渉であり、関係が断絶されているため
・本人の意思を尊重している
・こども本人の意向による入居を原則としている
・弁護士に依頼しているため
・市町村等他の窓口が介入することが多く、その時点で調整を依頼しているため

児童相談所との連携

こども若者シェルターに関する検討会における主な検討事項では、以下の項目が課題に上がっています。

・こどもが入所するに当たり、どのような場合に、どのようなタイミングで児童相談所への連絡を行うことが必要か
・児童相談所への連絡が必要なケースで、こどもが拒否した場合はどのように対応するか
・児童相談所への連絡が必要なケースのうち、どのような場合に一時保護委託による対応を行うことが適当か


民間シェルターの対応の一例【第1回検討会】

「こども・若者の居場所の確保に関する実態把握のための調査研究」で、「18歳未満のこどもからの相談は、最初に児童相談所へ相談するようにしている」と回答している民間シェルターがありました。

児童相談所と情報共有することで、民間シェルターの運営側に安心感があること、仮に自分たちの支援内容に危険性があれば指摘を受けられるという理由からだそうです。

こども・若者の居住地自治体と現在地(シェルター所在地)自治体の連携における課題

こども若者シェルターに関する検討会における主な検討事項では、以下の項目が主な課題として挙げられています。

・こども・若者の居住地自治体と現在地自治体が異なる場合、自治体間でどのように情報共有と協力を通じて一貫した支援を提供するか
・支援に当たって、自治体間の財政負担をどのように分担すべきか

 

入所中の生活のルールと権利擁護における課題

こども若者シェルターに関する検討会における主な検討事項では、以下の項目が課題に上がっています。

・入所中のこども・若者の権利擁護やこども・若者のニーズを踏まえ、シェルターにおける生活上のルール(携帯電話等の所持品の持込制限や通勤・通学を含む行動制限等)の設定等において、どのような点に留意すべきか
・利用者の安全確保の観点から住所の秘匿等が求められる中で、携帯電話等の利用や通勤・通学を含む行動制限等を必要最小限にするために、どのような工夫が考えられるか 
・学校に在学しているこども・若者が適切な教育を受けられるようにするためにどのような対応が必要となるか(例:通学支援やシェルタ ーにおける学習支援等) 

携帯電話ルールの一例【第2回検討会】

携帯電話は便利なツールです。しかし虐待などの問題を抱えているこども・若者にとって、親と連絡が取れて居場所を知られてしまうと、身体的・心理的安定性を保てないことにもつながります。一方で持っていないと社会生活に支障をきたすことにも。

NPO法人 チェンジングライフ(大阪府東大阪市)では、法人で格安携帯の貸与を行っています。

虐待する親からの奪還が想定されるケースでは、こども・若者が持っている携帯電話を電源を切って預かっています。ほとんどのケースが携帯電話本体は持っていても、契約は切れているというケースも多くあります。

そこで、本人が就労・就学を希望した場合、できるだけ、速やかに法人から格安携帯を貸し出しています。特に就労においては、携帯電話がないと面接の可否の連絡を受けることが出来ず、就職に不利になるからです。現代で携帯を所有していないと「訳あり」と思われてしまい、採用の障壁になります。

 

入所中の支援内容における課題

こども若者シェルターに関する検討会における主な検討事項では、以下の項目が課題に上がっています。

 ・宿泊場所の提供に加え、シェルターへの入所中において、どのような支援が必要となるか(例:生活支援(食事の提供等)、相談支援、心理的なカ ウンセリング、日中の居場所の提供、就労・就学支援、弁護士によるサポート、役所等への同行支援、退所先の調整等)
・シェルターの入所期間や回数の設定についてはどのように考えるべきか。
・シェルターへの入所中に、精神疾患や障害がある場合や妊娠をしている場合等、こども・若者に特別な支援のニーズがある場合には、どのような 対応を行うことが適切か

民間シェルターでは同行支援が100%【第1回検討会】

「こども・若者の居場所の確保に関する実態把握のための調査研究」で、民間のシェルターでは、以下のような支援を行っていることが明らかになりました。

・同行支援(役所や裁判所等)100%
・相談支援(対面、電話、メール、SNSなど)97.9%
・退所先の調整 89.4%、
・日常生活の支援(料理や清掃等)87.2%
・福祉サービスの利用申請に係る支援 87.2%

 

関係機関との連携のあり方における課題

こども若者シェルターに関する検討会における主な検討事項では、以下の項目が課題に上がっています。

・シェルターの運営に当たって、どのような関係機関とどのような連携を行うことが必要か(例:児童相談所、市町村、 警察、他の民間団体、医療機関、学校、弁護士等)  
・関係機関との連携を深める上で効果的な対応(例:ケース会議の開催、 要保護児童対策地域協議会やこども・若者支援地域協議会の活用等)や、 連携する上で留意が必要となる点(例:個人情報の取扱い等)は何か

公的支援が受けられなかったケース【第2回検討会】

NPO法人トナリビト(熊本県熊本市)で公的支援が受けられなかったケースのこども・若者を受け入れています。

公的支援を受けられなったケースでは、
・18歳を超えていたため、児童相談所の支援を受けられなかった 82% 
・即日入居・保護できる住居がない 85%
※公的なDVシェルター等は①入所要件のハードルが高い、②休日夜間に対応が難しい、③相談から入所までの手続きに時間がかかる、④若者本人がスマホが使えないことや規制に対して不安感が大きく入所を希望しない、などの理由で使用できないケースが多いがあります。
・大学在籍中であり生活保護が受けられない 2事例
※近年親を頼れない状態で大学進学し、生活困窮に陥る大学生からの相談が増加しています。現在の制度では大学在籍中は生活保護対象外になるため、受給が出来ないという課題があります。

 

こども・若者や関係者等への周知における課題

こども若者シェルターに関する検討会における主な検討事項では、以下の項目が課題に上がっています。

・利用ニーズのあるこども・若者がシェルターにつながれるようにするためには、どのような内容・方法で周知を行うことが効果的か(こども・若 者向け/関係機関向け) 
・ シェルターについて地域や社会一般の理解を増進するために、どのような内容・方法で周知を行うことが効果的か 
・周知を行うに当たって、どのような点に留意が必要か(例:住所の秘匿や利用者の個人情報保護への配慮等) 

広報活動への課題【第1回検討会】

こどもシェルターてんぽ(神奈川県横浜市)では、入所窓口として「居場所のないこどもの電話相談」を行っています。LINE相談では短時間で詳しい事情のやりとりが難しいため、電話相談のメリットを感じています。

現在2点の課題があります。

①てんぽを見つけやすくするための広報手段の確保

入所したこどもから、「どこに逃げたら良いかわからず、てんぽを見つけてたどり着くまでがすごく大変だった」という声がありました。家から逃げたいこども自身がわかりやすく見つけやすい広報を検討中でです。

②受け入れ人数のキャパシティ

周知して相談が増えても、実際にシェルターに入所できる人数が増えなければ断ることになるため、どこまで周知に力を入れたらよいのかが難しいと考えています。現状は、電話相談の実人数が年間100~120人程度であるのに対して、入所人数は約10分の1程度です。断っているケースが多くあります。

ガイドライン策定に向けて

この記事では、こども若者シェルターのガイドライン策定における課題と、民間シェルターのアンケート結果や実際の取り組みをご紹介しました。

家庭に居場所がないこども・若者が1人でも減り、社会から温かく守られながら育つ環境が整うよう、ガイドライン策定の今後に注目です。

 

<参考文献>

こども若者シェルタ ー・相談支援事業│こども家庭庁 2024

こども若者シェルターに関する検討会における主な検討事項│こども家庭庁 2024

こども・若者の居場所の確保に関する実態把握のための調査研究│こども家庭庁 2024

NPO法人 チェンジングライフの取り組み│こども家庭庁 2024

NPO法人トナリビトの取り組み│こども家庭庁 2024

こどもシェルターてんぽの取り組み│こども家庭庁 2024