地方議員の皆様、日頃から地域のためにご尽力いただき、ありがとうございます。最近、住民の方々からこんな声を聞くことはありませんか?
「役所の手続きが、なぜこんなに面倒で時間がかかるのだろう?」 「隣の市ではスマホで簡単にできるのに、うちの市ではなぜできないの?」 「平日の昼間しか窓口が開いていないのは、本当に困る…」
国が「デジタル化」を強く推進してから3年が経ちましたが、現場では思うようにデジタル化が進んでいないのが現実です。住民の代表である議員として、この現状をどう受け止め、どう変えていけるのか。今回は、国の最新データに基づき、なぜ役所のデジタル化が進まないのか、その本当の理由と議員としてできることを分かりやすくお伝えします。
まず、客観的なデータを見てみましょう。2025年4月末時点で、全国の自治体が使う3万4,592のシステムのうち、約1割にあたる3,279のシステムが「移行が特に困難」とされています。これは全国の自治体の3分の1(607団体)が、少なくとも一つはこうした問題のあるシステムを抱えていることを意味します。
さらに深刻なのは、手続きが「最初から最後まで」デジタルで完結していないことです。住民がインターネットで申請する部分は53.9%まで進んでいますが、役所からの結果通知がデジタルで届くのはわずか17.0%。つまり、申請はオンラインでできても、結果を受け取るために結局役所に行く必要があるケースが多いのです。
デジタル庁:地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化
総務省:自治体DX推進計画(第4.0版)
民間では当たり前のデジタルサービスが、なぜ自治体では実現できないのでしょうか。単純に新しいシステムを入れれば解決する話ではありません。5つの根深い問題が複雑に絡み合い、分厚い壁となっているのです。
デジタル化推進には専門知識を持った人材が不可欠ですが、圧倒的に不足しています。2023年4月時点で、外部の専門家(デジタル化のアドバイザー)を雇っている市区町村はわずか219団体(約12%)しかありません。
例えるなら: 家の大改修を、大工さん2-3人が他の仕事と兼務しながら進めているような状態です。
多くの役所では、情報システム担当者が2-3名程度で、既存システムの維持管理だけで手一杯。さらに、せっかくデジタルに詳しい職員が育っても、数年で他部署に異動してしまい、知識が組織に残りません。総務省自治体DX推進計画
長年の個別開発とカスタマイズで、システムが複雑に絡み合い、誰も全体像を把握できない「ブラックボックス」状態になっています。
例えるなら: 家中の配線が独自仕様で、別の電気屋さんでは触れない状態です。
公正取引委員会の調査では、官公庁の98.9%が「同じ業者との契約を続けている」と回答。システムの仕組みやデータを、その業者しか知らないため、他社への変更が困難な「ベンダーロックイン」が常態化しています。官公庁における情報システム調達に関する実態調査報告書
「仕様を詳細に決めて最安値で選ぶ」従来の契約方式は、デジタル技術の柔軟性と相性が悪く、途中変更のたびに高額な追加費用が発生します。
例えるなら: 設計図を細部まで固定して家を建てると、コンセント1つ追加でも大きな追加費用がかかる状態です。
新技術を小規模で試す「実証実験」の仕組みも不足しており、迅速な導入が困難です。
年齢、地域、収入などによる「デジタル格差」があり、全住民がデジタルサービスを使えるわけではありません。そのため、デジタル化を進めても従来の窓口対応も維持する必要があり、自治体には「二重の負担」が発生しています。
さらに、マイナンバー関連のトラブル(保険証の誤登録、証明書の間違いなど)により、住民の制度全体への信頼が揺らいでいます。
国が用意した共通クラウド環境(ガバメントクラウド)への移行が進んでいますが、運用費用が当初想定より高くなるケースが発生しています。
例えるなら: 乗らないのに大きな車を借り続けているような状態です。
栃木県真岡市のように夜間システム停止などで「使った分だけ支払う」工夫をしている自治体もありますが、多くの自治体で費用最適化の能力が不足しています。
総務省:情報通信白書
これらの問題に直面してしまう原因の1つが「人材不足」です。適切な人材さえ確保できれば、限られた予算でも大きな成果を生み出せます。それらをより詳しく学ぶための勉強会をご準備させていただきました。ぜひご活用いただけますと嬉しく思います。