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地方議会は、地域の未来を決定する重要な場です。しかし、その議会内でハラスメントが深刻な問題となっている現状は、見過ごせない事態だといえるでしょう。議員同士や職員との間で発生するパワハラやセクハラなど、さまざまなハラスメントが報告されており、これは地方自治の健全な運営に深刻な影響を及ぼしています。この問題は、議会の信頼性や機能にも直結する重大な課題です。
本記事では、地方議会におけるハラスメントの実態と、その対策について詳しく解説します。特に「指導」と「ハラスメント」の線引きに注目し、議員の皆さんが無自覚のうちに加害者になってしまうリスクについても考えていきましょう。
近年、地方議会におけるハラスメント問題への関心が高まっています。内閣府男女共同参画局の調査によると、地方議員の42.3%が何らかのハラスメント行為を受けたことがあると回答しています。特に女性議員では、その割合が57.6%にも上ります。
これらの数字は、地方議会におけるハラスメントが決して珍しい問題ではないことを示しています。むしろ、かなり日常的に起きている可能性があるのです。
ハラスメントは、被害を受けた個人に深刻な心身の影響を与えるだけでなく、地方政治全体にも悪影響を及ぼします。例えば、ハラスメントを恐れて発言を控える議員が増えれば、活発な議論が阻害されてしまいます。また、ハラスメントの存在が知られれば、新たな人材が議員になることをためらうかもしれません。
さらに、ハラスメント問題が表面化すれば、議会全体の信用が失墜し、住民からの信頼を失うことにもつながりかねません。地方自治の根幹を揺るがす問題だと言っても過言ではないでしょう。
パワーハラスメント(パワハラ)は、職場での地位や人間関係の優位性を利用して、相手に精神的・身体的な苦痛を与える行為です。議会内では、例えば以下のような事例が報告されています。
これらの行為は、単なる指導の範囲を超えており、明らかにパワハラに該当します。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、相手の意に反する性的な言動によって、就業環境を害する行為です。被害者や目撃者からの証言では、しばしば以下のような事例が報告されています。
このような行為は、断じて許されるべきではなく、相手の方の尊厳を著しく傷つけ、議会の品位を貶める行為です。
マタニティハラスメント(マタハラ)は、妊娠・出産・育児を理由とする不利益な取り扱いや嫌がらせです。多様な人材が活躍すべき議会内でも、残念ながら以下のような問題が起きています。
女性議員に対する誹謗中傷やハラスメントが横行するような状況は、多様な人材が政治参画を躊躇する要因となり、結果として多彩な視点が政治に反映されない状況を生み出すことにつながります。
ハラスメントと指導の線引きは、時として難しい場合があります。例えば、ミスを指摘することは必要な指導ですが、人格を否定するような言葉を使えばハラスメントになってしまいます。
指導とハラスメントを区別する重要なポイントは以下の2点です:
例えば、「このミスは重大だ。今後どう改善するか一緒に考えよう」という発言は適切な指導です。一方、「おまえはバカだから、こんなミスをするんだ」という発言は明らかにハラスメントです。
逆に言えば、業務上必要な指示やルールに基づく叱責であれば、たとえ相手が不快に感じたとしても、それはハラスメントには当たりません。重要なのは、その指導が相手の成長を促すためのものであるか、単なる感情のはけ口になっていないかを常に意識することです。
ハラスメントを防ぐには、議会全体でルールを作り、共通認識を持つことが重要です。例えば以下のようなルールが考えられます:
これらのルールを作る過程で、議員同士が議論を重ね、お互いの考えを理解し合うことも大切です。ルールがあることで、「これは指導の範囲内か」「ハラスメントに当たらないか」を客観的に判断しやすくなります。
多くのハラスメント加害者は、自分の言動がハラスメントであると認識していないことがよくあります。「昔からこうだった」「冗談のつもりだった」といった言い訳を耳にすることがありますが、これらは通用しません。
ハラスメント防止には、全議員を対象とした定期的な研修が効果的です。研修では、ハラスメントの定義や具体例、最新の法律や社会の動向などを学びます。また、ロールプレイングなどを通じて、自分の言動を客観的に見つめ直す機会を設けるのも良いでしょう。
ハラスメントの被害者が声を上げやすい環境を整えることも重要です。議会内に相談窓口を設置し、専門の相談員を配置することが望ましいでしょう。
ただし、議会という小さなコミュニティでは、相談者の特定を恐れて相談をためらう人もいるかもしれません。そのため、匿名で相談できる仕組みや、外部の専門機関と連携した相談体制を整えることも検討すべきです。
地方議会におけるハラスメントは、個人の問題にとどまらず、地方自治の根幹を揺るがす重大な課題です。しかし、適切な指導とハラスメントの線引きは時として難しく、無自覚のうちに加害者になってしまうリスクもあります。
だからこそ、議員一人ひとりが高い意識を持ち、お互いを尊重し合う環境づくりが大切です。ハラスメント防止のためのルール作りや研修、相談窓口の設置など、具体的な対策を進めていくことが求められます。
ハラスメントのない議会は多様な意見が活発に交わされ、地域のために建設的な議論が行われる場となるはずです。そんな理想の議会を目指して、今日からできることから始め、より良い地方自治を実現していきましょう。
【参考資料】
政治分野における ハラスメントの防止について|内閣府男女共同参画局|2023
芦屋市議会ハラスメント等防止に関する指針|芦屋市|2024
地方議会における ハラスメント防止に向けて|日本学術会議|2022