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キャッシュレス決済の急速な普及に伴い、特定の地域やコミュニティだけで利用できる電子決済手段である「デジタル地域通貨」が、近年地方経済活性化の手段として注目されています。この記事では、デジタル地域通貨の導入メリットや成功事例、失敗事例から学ぶ導入のヒントについて解説していきます。ぜひ最後までお読みいただき、地域経済の活性化にお役立てください。
近年、地域経済の活性化を目指し、デジタル地域通貨を導入する自治体が増加しています。2次元バーコードの普及やブロックチェーン技術の確立により、低コストで導入できるようになったことが普及の要因です。
一般的な通貨である「円」はどこでも使用できる法定通貨ですが、汎用的なぶん流動性が高く、地域内での経済活動が大都市圏に流出する問題がありました。デジタル地域通貨の導入は利用地域が限定されますが、地域内での経済活動を促進させ、自治体の中での資金循環を活性化させる狙いがあります。
デジタル地域通貨は、地域経済の持続可能な発展に貢献する重要なツールであり、今後さらなる普及が期待されます。国内でもデジタル地域通貨の成功事例が出始めており、地域経済の活性化やコミュニティの結束、地域特産品やサービスの振興に寄与しています。
「さるぼぼコイン」は、岐阜県の飛騨信用組合が飛騨・高山地域(飛騨市・高山市・白川村)で発行するデジタル地域通貨です。2017年12月、キャッシュレスサービスが一般化する前に立ち上げられ、地域のキャッシュレス需要を先取りして成功を収めました。
さるぼぼコインの利用者数は、2022年6月末時点で約2万5000人、加盟店数は約1900店、累積決済額は約60億円に上ります。利用者の73%以上が地元住民であり、大手の電子決済会社がシェアを奪えないほど地域住民の生活に溶け込んでいます。
飛騨信用組合の丁寧な支援も、さるぼぼコインの成功に大きく貢献しています。会費払いや個人間送金など、さまざまな場面でさるぼぼコインをもらう機会が提供されています。また、地域外の需要を掘り起こす施策として、さるぼぼコイン決済限定で裏メニューを提供する飲食店を設定するなど、ユニークな試みが好評です。
初期の積極的な啓発活動も効果的でした。職員がアプリの使い方やキャッシュレス決済の方法を丁寧に説明してまわり、地域密着型の支援であることを周知させたことで、さるぼぼコインの普及につながりました。
さるぼぼコインは地域経済の活性化やコミュニティの結束を促進する有効な手段として完全に認知され、利便性と地域への貢献度から、今後もさらなる成長が期待されています。
「アクアコイン」は、君津信用組合、木更津市、木更津商工会議所の連携により運営されるデジタル地域通貨です。2022年9月末時点での利用者数は約2万5000人、加盟店数は約800店、累積決済額は約10億円に上ります。
アクアコインは高齢者層への配慮をいち早く取り入れていることが特徴的です。スマートフォンを持たない方やデジタル機器の操作が苦手な方向けに、ICチップを内蔵したリストバンド決済の実証実験が行われました。この取り組みは利用者からの評判も上々で、地域の高齢化に対応しつつデジタル地域通貨の普及を促進しています。
また、二次流通機能を備えていることも大きな長所です。加盟店が消費者から受け取ったアクアコインを換金することなく、そのまま加盟店同士のBtoB決済に利用できます。加盟店側は換金手数料が不要になるため積極的に利用し、地域内での経済循環を促進させています。
このように木更津市では、アクアコインの普及を通じて地域のコミュニティを強化し、持続可能な地域社会の実現に向けた取り組みが進められています。
東京都板橋区では、地域経済の活性化を図るため、独自のデジタル地域通貨「いたばしPay」を導入しています。この取り組みは、消費活動と経済循環の促進に加えて、地域住民と事業者の絆を深めることを目指しています。2022年10月に19.5億円分が発売され、その後もキャンペーンや普及施策により注目を集めました。
「いたばしPay」の成功要因の一つに、導入初期のシェア獲得に注力した点が挙げられます。開始当初の期間限定で、チャージ額の30%が上乗せ付与されるキャンペーンを展開しました。また、販促キットの一環としてポスターや決済時に使用する2次元コードを運営側が積極的に配布することで、加盟店舗側の導入ハードルを下げました。
さらにコンビニATMとの連携を図り、いつでもどこでもチャージできる仕組みを整備。板橋区内の126カ所と全国約26,000カ所でチャージ可能であり、多くの人々が手軽に利用できるインフラ環境の整備は、アプリ活用促進に大きく寄与しています。
2023年12月にはユーザー数が10万人を突破し、加盟店数も1,200店舗を超え、流通総額も52億円を超える成果を挙げました。今後は加盟店数1,500店舗達成を目指し、地域へのエンゲージメントを高めるインフラとして、さらなる成長を目指す取り組みが展開されています。
福島県会津若松市は地域経済の活性化を目指し、地域限定の電子マネーの導入に取り組みましたが、残念ながら失敗に終わりました。この失敗から、デジタル地域通貨の導入に関する重要なヒントが得られます。
会津若松市の電子マネーは、地元の加盟店で使うたびにポイントがたまり、健康診断の受診やボランティア参加でもポイントが付与される仕組みを持ち、地域経済の活性化とともに地域社会にプラスの影響を与えることを狙った取り組みでした。
しかしこの施策は市民に存在すら知られず、利用者がほとんど現れませんでした。失敗の直接原因は導入店舗の不足だと考えられています。当初計画していた100店舗のうち、導入されたのはわずか11店舗に過ぎませんでした。
導入を検討した店舗側からは、電子マネー用の機器操作の煩雑さが指摘されました。地域経済の活性が期待できるといっても、レジでの手続きが煩雑になることを嫌がる店舗が多かったのです。
まず、デジタル地域通貨導入においては、加盟店が導入しやすい仕組みを作ることが重要です。具体的には、2次元コード決済を採用し加盟店側で専用端末の導入を不要にするなど、導入や運用の作業コストを低減する取り組みが有効です。
次に、導入当初のインセンティブ設計が重要です。デジタル地域通貨でしか買えない商品や、思い切った還元率などのインセンティブを設けることで利用者の囲い込みを促しましょう。導入初期にまとまった利用者を獲得することで、さらなる加入店の増加・利用者の増加という好循環が生まれます。
そして誰もが普段使いしやすい機能設計が必要です。チャージできる場所を増やしたり、スマホが苦手な方向けにカード型やリストバンド型でも利用できるようにするなど、利用者特性に合わせた機能設計が求められます。
この記事では、岐阜県飛騨・高山地域のさるぼぼコインをはじめとした3つの自治体を参考に、デジタル地域通貨の導入について解説してきました。各自治体の成功要因や、導入に向けた具体的な施策を参考にしていただき、ぜひお住まいの地域を活性化させるヒントとしていただければ幸いです。
【参考資料】
https://www.hidashin.co.jp/coin/
https://www.kisarazu-aquacoin.com/
https://itabashipay.jp/itabashipay_2022.pdf