「がん患者さんに自治体としてどのような支援ができるの?」
「他の自治体の事例を知りたい」
2人に1人ががんになる時代です。誰がかかってもおかしくはありません。
がん患者さんは通院の交通費・治療費用・アピアランスケアのための物品購入代など、治療と生活にお金がかかります。自治体からのサポートは心強い味方です。
この記事ではがん患者さんへ自治体が行っている支援事例をご紹介します。最後までお読みいただくと、お住まいの自治体での活用できるヒントが得られますよ。
愛媛県では「がんサポートサイトえひめ」というホームページで、がん治療の情報提供をしています。
このサイトがユニークなのは、がんの部位ごとに知りたい情報が全てまとまっている点。
がん疑いの診断がおりた人から、治験や臨床試験など新たな治療の選択肢を得たい人まで、幅広い段階の人に向けた情報が一目でわかります。
困ったときは頼りにしたくなるサイトです。
横浜市では、骨髄移植などの治療で、再度予防接種が必要になった小児を対象に、接種代の補助を行っています。
年齢で打てるワクチンに制限はありますが、全額を補助しています。
白血病などの治療で骨髄移植を行うと、もともと持っていた自分の血液細胞が全て失われます。すると、過去に打った予防接種の免疫がなくなってしまうんです。
骨髄移植を受けた後の血液細胞には免疫がないので、新たに打ちなおす必要があります。
全額自費扱いになる予防接種は高額です。
例えば4種混合というワクチン、1回あたり約1万円×4回。他にも複数回打つワクチンがあるので、高額な持ち出しになります。
筆者が看護師をしていたときに、「移植後の予防接種代が自費で高い」と、患児の母親の声を聞いたこともあります。
全国の自治体を対象に行った「骨髄移植等の医療行為により免疫を消失された方への支援状況の調査」(H30年7月厚生労働省)で、何らかの補助がある自治体は5%にとどまるという結果がでています。
その5%の自治体の内訳を見ると、全額補助が約30%、一部補助が約22%という結果に。
横浜市の取り組みは全国的にも珍しいことがわかります。
<参考サイト>
●骨髄移植等により免疫を失った方に対する「再接種費用」の助成について 横浜市
静岡県では、将来子どもを産みたいと願う小児・AYA世代のがん患者さんに、妊孕性温存療法及び温存後生殖補助医療にかかる費用の一部を補助しています。
※AYA世代(Adolescent&Young Adult(思春期・若年成人)):15歳から39歳のがん患者さんを指します。
※妊孕性(にんようせい):精子、卵子など子どもを持つための細胞や機能のこと
妊孕性温存療法とは、抗がん剤治療の前に卵子や受精卵を凍結したり、精子や精巣組織の一部を凍結する治療のことです。
卵子や精子は抗がん剤治療の影響を強く受けます。将来子どもを産みたいAYA世代に、妊孕性温存療法が普及してきています。
温存後生殖補助医療とは、治療したあとに子どもを持ちたいタイミングで、凍結した卵子や精子を体外受精・顕微受精をして、育った卵子を子宮に戻す治療のことです。
一連の生殖補助医療は保険適用がなく、費用が高額です。1回の治療で数万円が一気に消えていきます。
自治体の補助があれば、AYA世代の負担を少しでも軽くすることができるのです。
<参考サイト>
●小児・AYA世代(※)等のがん患者に対する支援を実施しています|静岡県公式ホームページ
静岡県熱海市では、AYA世代のがん患者が自宅療養するさいに必要な費用補助をだしています。
39歳未満のAYA世代は介護保険が使えません。
自宅で訪問介護や訪問看護の支援を受けながら生活したいと思ったら、費用の壁にあたります。福祉用具の貸与や購入の補助もありません。
熱海市では、そのような40歳未満を支援しています。居宅サービスなら月5万円の上限まで補助がでます。
熱海市の取り組みが全国的に珍しいのは「小児にも適用される点」。自分の住み慣れた場所で、最期まで大切な家族と一緒に過ごしたいという希望を支えてくれる、頼りになる支援の1つです。
<参考サイト>
●熱海市若年がん患者などの費用助成事業
鳥取県では、副作用予防のために必要な物品を購入すると、購入金額の一部補助をしています。
具体的には以下の2つ。
①頭皮冷却装置を使用する際に必要となるインナーキャップ
インナーキャップは、抗がん剤を投与する間、ずっと頭皮を冷やす続けて、抗がん剤の副作用の脱毛を抑える治療で使います。
1つ購入すると1,500円まで補助がでます。
②抗がん剤による脱毛を防ぐために使用する用品(アピアランス用ケアローション等)
アピアランス用ケアローションは、抗がん剤の影響を受けた爪や髪の毛の回復をサポートします。
1つ購入すると3,800円まで補助がでます。
抗がん剤の種類によっては髪の毛が抜けやすい、爪が黒くなりやすいなど、見た目に大きな変化が出ることがあります。
多くの患者さんがその変化に悩んでいます。中には、変化に気持ちが追いつかなくて、心を病んでしまう方も。
患者さんの「生活の質」に直結する鳥取県の取り組み、患者さんが求めている補助の1つを実現させた形ですね。
<参考サイト>
●鳥取県抗がん剤副作用対策支援事業補助金/とりネット/鳥取県公式サイト
●抗がん剤治療副作用対策支援事業 補助金のご案内
東京都港区ではウィッグ(かつら)や胸部補正具の購入に助成を出しています。他にも多くの自治体で取り入れられている助成の1つです。
補助は上限30,000円、または購入経費の7割のうち、いずれか低い額です。
ウィッグには人工毛タイプと人毛タイプがあります。人工毛は化学繊維を使った人工的な髪の毛です。安いものだと1万円程度から。人毛は本物の人の髪の毛を使っています。値段は安いものでも10万程度します。
胸部補正具は乳がんの患者さんが、手術後の乳房の形の変化を補正するために使うノンワイヤーソフトブラやシリコンパッドなどのことです。
どれも日常生活の質に直結する大切な支援です。
<参考サイト>
●がん治療中の方へウィッグ等購入費用助成制度のご案内
福岡県では、がん治療と仕事を両立できる環境を整えようとしている事業所に補助金を出しています。
がん治療と仕事の両立を選ぶ人も増えています。しかし治療中は体調が安定しない、体力が落ちているなどの理由から、治療前のように働くことができない人も。
時短やテレワークなどで仕事を続けられるよう、働く環境を整えるための費用補助や、事業所への無料のアドバイスなども行っています。
<参考サイト>
●がんの治療・介護と仕事の両立支援制度の導入を検討する事業所を支援します。(令和3年5月1日より補助対象を拡充し、幅広い支援を実施します。) - 福岡県庁ホームページ
この記事では、自治体が行っているがん患者さんへの支援策をご紹介しました。
だれもがんにかかりたくてなる訳ではありません。
健康診断でいつも異常なしだったのに、突然の精密検査を言い渡されて、そこから気が付くと診断がついて、治療の話になっていた‥。えっ、お金どうしたらいい?仕事どうする?常に不安がついてまわります。
もし、自分ががんになって自治体が小さなことでも支援をしてくれたら、心強いサポーターをつけたと感じることでしょう。
ぜひお住まいの自治体で参考にしてみてくださいね。