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医療DXの可能性と課題を探る|地域医療の効率化を実現

作成者: にしのやすひろ|2024/09/17 22:25:20

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各分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進される現在、地域の医療提供体制においてもDX化の重要性が高まっています。地域の医療をより効率的に提供するためには、どのような施策が必要なのでしょうか?この記事では、医療DXの定義や概要、各施策とそのメリット、現状と課題について解説します。ぜひ最後までお読みいただき、地域の医療をDX化する際の参考としてご活用いただければ幸いです。

医療DXとは?定義や概要を解説

医療DXとは、保健・医療・介護の各段階における情報やデータをクラウドなどの全体最適な基盤を通じて共通化・標準化し、国民の健康促進と医療・ケアの質の向上を目指す取り組みです。

日本では高齢化が進むことから、年配者へのケアや将来世代の安心な暮らしを考慮する必要があります。医療のDX化によって、国民の健康増進や質の高い医療提供、医療機関の業務効率化、システム人材の活用、医療情報の二次利用環境整備を目指します。

例えば、問診システムの導入やリモート診療の実施による業務負荷の軽減・診療の効率化、全国医療情報プラットフォームの創設や電子カルテ情報の標準化が進められています。これにより高度な医療の提供や医療費の削減、地域格差の是正が期待されています。医療DXは、病院や介護、保険、薬剤など、患者情報の共有を通じてより良い医療を実現し、社会全体の発展に貢献する重要な取り組みです。

医療DXの各施策とメリット

医療DXは日本の医療水準を維持し、質の高い医療サービスを提供するためのカギです。DX化にはさまざまな施策がありますが、その中でも特に革新的なものをいくつか取り上げ、それぞれの施策の具体的なメリットについて詳しく解説します。

オンライン資格確認の導入

オンライン資格確認により、マイナンバーカードの情報を活用できるようになりました。これにより、患者本人の健康・医療データに基づいた適切な医療の提供が可能になります。従来の方法では、患者の健康保険証の情報を手動で入力する必要があり、待ち時間や入力の手間が課題でした。

オンライン資格確認の導入によって、医療機関は受付業務の手間を大幅に削減できます。資格過誤によるレセプト差戻し作業もなくなり、より効率的な業務運営が可能になります。

電子カルテ情報共有サービス

電子カルテ情報共有サービスは、全国の医療機関や薬局をつなぐオンライン資格確認システムのネットワークを活用し、医療情報の共有・交換を行う仕組みです。

このサービスの主なメリットは、まず、診療情報提供書の電子上での送受信が可能になることです。患者の医療履歴や治療経過が迅速かつ正確に共有され、医療機関間の連携がスムーズになります。

健康診断結果報告書の共有も可能です。医療保険者や全国の医療機関が情報を共有することで、患者の健康状態に関する正確な情報が迅速に伝達されます。

そしてオンライン資格確認システムと連携することにより、患者同意のもとで電子カルテ情報や健康診断結果報告書を全国の医療機関で取得・閲覧できます。これにより、患者が移動や転院をした際でも、必要な情報が容易に入手できます。

標準型電子カルテシステム

標準型電子カルテシステムとは、全国医療情報プラットフォームにつながっている情報共有が可能な電子カルテのことを指します。従来の紙媒体では問診票や手書きのカルテ、レントゲンなどが分かれて保存されるため、情報の整理が煩雑でした。

しかし電子カルテではこれらのデータを一元管理できるため、診療の迅速化や正確性の向上につながります。情報共有や医療研究・解析も迅速に行えるため、医療の質の向上にも寄与します。

紙媒体を保管するスペースも不要になるため、整理や管理にまつわる作業コストの削減や業務効率化が図られます。また標準化された情報は、異なる医療機関やソフトウェア間でのデータ統一を可能にし、医療従事者が共通の形式でデータを取り扱えるようになります。

電子処方箋

電子処方箋は、処方箋を紙ではなくデジタルデータで運用する仕組みです。患者の同意を得た上で、全国の医療機関・薬局において、3年間の薬剤情報と直近の処方・調剤結果を参照できます。

電子処方箋の導入による一番のメリットは、重複・投薬防止や適切な薬学的管理が全国規模で可能になることです。患者の薬剤情報を一元的に管理するため、必要に応じて全国のあらゆる医療機関や薬局でいつもと同様のサービスを受けられます。

さらに電子処方箋はオンライン診療や服薬指導の利用促進にも寄与し、リアルタイムでの情報連携により質の高い診察・処方が期待できます。

診療報酬改定DX

診療報酬改定DXは、医療機関における診療報酬改定時の負担軽減を目指す取り組みです。現在のベンダーや医療機関では、診療報酬改定が行われる際には集中して対応する必要があり、大きな業務負荷となっていました。

診療報酬改定DXでは、医療機関の各システムに共通算定モジュールを提供することで、現場スタッフやベンダーが改定にスムーズに対応できるよう改革を進めています。

具体的には、診療報酬の算定と窓口負担金の計算を全国共通の電子計算プログラムで行うことで、診療報酬改定に関する作業を効率化し、医療機関のシステム改修コストを削減します。

公費・地単公費の医療費助成情報のマスタ作成においても、難病や障害などの国公費負担医療や、子ども・乳幼児医療費助成などの地方自治体が独自に行う地単公費負担医療などの情報を管理することで、公費負担医療の現物給付化を可能にします。

医療DXの現状と課題

医療DXは業界全体の課題を解決する可能性を秘めていますが、その実現にはいくつかの重要なハードルが存在します。医療機関がデジタル変革に取り組む上での主要な課題とその背景について、以下で詳しく見ていきましょう。

医療機関の経営難

近年医療機関の経営は厳しさを増しています。厚生労働省の調査によると、黒字病院の比率は減少しており、特に一般病院や精神科病院などでその傾向が顕著です。さらに新型コロナウイルスの感染拡大により、医療機関は深刻な打撃を受けました。患者の受診控えにより収益が激減し、一部の医療機関は閉院を余儀なくされました。

このような状況下で新しいサービスやシステムの導入に慎重になるのは当然です。DX導入には多くコストがかかりますが、人件費や業務負担の軽減、医療の質の向上などのメリットと、将来的なコスト削減を総合的に比較して検討することが重要です。

一部の医療機関では、DX化の工程や部門を限定的に行う「スモールスタート」を採用し、システムの有効性や適合性を確認しながら段階的に導入しています。

医療機関が経営難に直面している現状だからこそ、医療DX化は必要不可欠な取り組みです。コストやリスクを最小限に抑えた段階的なアプローチが有効であり、医療機関や行政間で綿密な検討を行うことが求められます。

現場のITリテラシー不足

医療従事者の中には、紙媒体での慣習から抜け出せず、医療DXに懐疑的な方もいます。特に新しい機器を導入する際には、経営層の理解が不可欠ですが、実際にはその理解が得られない場合もあります。この医療現場におけるITリテラシーの不足が、DX化を妨げる要因となっています。

2023年3月に発行されたIPAの「DX白書2023」によれば、医療・福祉産業のDX取り組みは全体の約9%に過ぎず、他の産業に比べて大きく遅れています。慣例的に行われている紙媒体の申請業務では、手書きやワード、エクセルを使った記入・印刷が主流であり、業務の効率性を著しく低下させています。

高齢の患者からも「デジタル化された問診や予約システムの利用は難しい」という声が上がっているのは無視できない事実です。全員のITリテラシー向上への取り組みが不可欠ですが、全ての業務を一斉にデジタル化するのではなく、現場や患者のニーズを考慮したプロセスの設計が重要だと言えます。

医療DXで時代に即した医療提供体制を整備しよう

医療DXの推進は、地域の医療提供体制を時代に即したものに整備する重要な一歩です。患者のニーズに適応し、医療の質と効率を向上させるためには、医療機関や行政を含めた関係者全員が積極的に関わり合う姿勢が必要です。ぜひこの記事を参考にし、地域医療をDX化するための一助として活用してください。

【参考資料】
https://www.mhlw.go.jp/stf/iryoudx.html
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/000992373.pdf
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/iryou_dx_suishin/pdf/dai3_kanjikai.pdf