「災害経験のある自治体では、どんな防災の取り組みをしているの?」
東日本大震災や集中豪雨で大きな被害を受けた宮城県。その経験を活かし、それぞれの地域特性に合わせた防災に取り組んでいます。
この記事では、
◻︎避難に支援が必要な方のサポート
◻︎マンションの防災の取り組み
◻︎夏祭りでの防災啓発
◻︎欧米の災害対応システムを活用した事例
をご紹介します。
最後までお読みいただくと、お住まいの自治体での防災対策のヒントが得られますよ。
山元町は宮城県の東南端にあり、太平洋沿岸に面しています。人口は約11,500人(令和5年12月)。
東日本大震災では町全体が津波で甚大な被害をうけました。今回ご紹介する花釜地区は津波で全域が浸水したエリアです。
花釜地区は平らな土地が広がり、高台や避難場所までは車での避難が必要です。そこで、隣近所数世帯でグループをつくり、災害時はお互い声をかけあうようにしています。
ご近所5〜6世帯でグループを結成。少し離れてしまう世帯には、事前に連絡方法を決めておきます。
グループ内では避難場所や避難経路、声かけルールを決めておきます。さらに、避難に支援が必要な世帯を事前に共有して、誰が迎えに行くのかを調整しています。
例外は津波のとき。それぞれが逃げることを最優先することにしました。その上で余裕があれば声かけや迎えに行きます。
津波は地震後すぐに発生することもあり、まずは自分の命を守る行動が大切です。
山元町の取り組みは、日頃からご近所同士のコミュニケーションと信頼関係、避難訓練があってこそ成り立つ仕組みです。防災に限らず、地域の行事などで関係性を深めていくことが大切ですね。
https://www.town.yamamoto.miyagi.jp/site/fukkou/324.html
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bousai/miyagitiikibousai.html
地震発生後、建物が無事ならマンションで自宅避難することもあります。そのため、日ごろからマンション内での防災力を上げておくことも大切です。
仙台市太白区にあるグリーンキャピタル長町IIは14階建てのマンション。子どもからご高齢の方まで、幅広い年代の方が住んでいます。
マンションの防災対策を進めている事例としてご紹介します。
グリーンキャピタル長町Ⅱは、仙台市から「杜の都防災力向上マンション」認定されています。これはマンションの防災力を「防災性能」「防災活動」で評価し、仙台市が認定する制度です。認定を受けるには、いくつもの基準をクリアしなければいけません。
さらに、仙台市地区避難施設(がんばる避難施設)の認定も受けています。マンションの住人が普段から備蓄を行い、災害時の運営までを自立して行う体制を整えています。
グリーンキャピタル長町Ⅱでは、エレベーターが停まったときの高齢者や障害者の避難方法が課題でした。
そこで目をつけたのが、「非常用階段避難車」です。非常用階段避難車は階段を安全に下ろすことができます。介助者1名から使え、特別な技術は必要ありません。
事前の操作訓練は必要ですが、このような備えがあると安心ですね。
グリーンキャピタル長町Ⅱでは、地域の小学校で開催される避難訓練にも参加。避難所設営の役割を果たしています。
マンションの場合、管理組合内で完結してしまい、地元町会とのつながりが弱くなりやすいもの。しかし地元町会とのつながりが被災者支援にもつながると考え、マンション側と避難所運営委員会で何度も協議。顔の見える関係性をつくりました。
グリーンキャピタル長町Ⅱ管理組合は、住人の防災意識を高めるため、ワークショップを開催しています。
例えば、子ども会と協力したワークショップ。親子参加型で新聞紙でスリッパやコップを作ったり、お菓子にお湯を入れてマッシュポテトを作ったりします。
防災の意識を高めるだけでなく、管理組合役員と住人の交流の場にもなっています。
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bousai/miyagitiikibousai.html
多賀城市は宮城県の中央に位置しています。仙台市へのアクセスが良く、特に新田地区は近年居住者が多いエリアです。
夏祭りで遊びながら防災意識を高めてもらう取り組みをご紹介します。
対象は小学生。防災グッズを持ち出し用袋に入れて夏祭りに持参します。防災グッズは子どもたちが必要だと思ったもの。
夏祭りでは、1人ずつ持ち出し袋の中身と選んだ理由をプレゼン。総合的に判断し、上位3名が表彰されます。
親子で夏祭りに参加する家庭も多く、地域とのつながり作りにも有効だそうです。
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bousai/miyagitiikibousai.html
自主防災組織では事前に「情報班」「炊き出し班」「救護班」など、災害時の役割を決めているケースがあります。しかし災害時には、住民全員が万全な状態で集まれるわけではありません。
そこで「災害時に必要な役割だけ決める」欧米の災害対応システムを取り入れた、東松島市上河戸若葉自主防災会の事例をご紹介します。
東松島市は宮城県東部に位置し、太平洋に面しています。人口3万8千人(令和5年9月時点)。東日本大震災では津波被害をうけました。
上河戸若葉自主防災会は、ICS(インシデント・コマンド・システム、略称:アイシーエス)という考え方を取り入れています。これは、「災害時に必要な役割」だけを事前に決めておいて、災害規模や集まり状況によって役割を決める考え方。欧米では標準的な考え方です。
以前は「災害対策本部」があり、その直下に「災害本部」、さらにその下に「避難誘導班」「救急・救助班」「消火班」「看護・衛生班」「避難所および給食・給水班」に分けて、班長・副班長・班員を決めていました。
ICSでは初動・安否確認段階では、「本部」「要支援者避難支援」と「消火・救出・救助」チームに分け、誰が何をやるかは、そのときに決めることに。そして避難生活支援が必要になった段階で、「本部」「安否確認」「物資管理」「生活炊き出し」「衛生・救護」班を再編します。
「限られた資源人材」を効果的に活用するための仕組みです。
ICSには課題もあります。住民は全てができるように一通り訓練して、経験しておく必要があるということです。
ただ裏を返すと、住民の防災対応力が上がるということでもあります。住民が受け身ではなく積極的に訓練に参加することにより、地域防災力が更に上がります。
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/bousai/miyagitiikibousai.html
この記事では、避難支援が必要な方のサポート、マンションでの防災の取り組み、夏祭りでの防災啓発、欧米の災害対応システムを活用した事例をご紹介しました。
どんなに良い訓練や仕組みがあっても、住民1人ひとりが防災意識を高めなければ絵にかいた餅です。日頃から本番さながらの訓練が大切になってきます。
ぜひ、お住いの自治体での課題解決の参考にしてみてくださいね。