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国民健康保険制度は、多くの国民にとって欠かせない医療保障を提供していますが、その一方で制度の維持には様々な課題が存在します。この記事では、国民健康保険の仕組み、現在の課題、負担軽減措置、そして今後の見通しについて解説します。政府は2024年度の国民健康保険料の上限額引き上げを公表しましたが、その背景や意図を理解することは、自治体が適切な対応策を講じるために重要です。ぜひ最後までお読み頂き、国民健康保険が抱える課題解決に向けた参考情報としてご活用ください。
1955年頃まで、日本には農業や自営業者、零細企業従業員を中心に約3000万人の無保険者が存在し、深刻な社会問題となっていました。この問題を解決するため、1958年に国民健康保険法が制定され、1961年には全国の市町村で国民健康保険事業が開始されました。事業として制定されたことにより、誰でも・どこでも・いつでも、保険医療を受けられる体制が確立されました。
日本の医療保険制度は、全ての国民が何らかの公的医療保険に加入し、医療費をお互いに支え合う「国民皆保険制度」を基本としています。これにより国民全員が保険証一枚でどの医療機関でも診療を受けられる仕組みが整っています。制度の確立から50年以上が経過し、保健医療受診は日本国民にとって当たり前のこととなりました。
日本の国民皆保険制度では、全ての国民が公的な医療保険に加入することが義務付けられています。会社員は社会保険、船員は船員保険、公務員や私学の教員は共済組合に加入し、75歳以上や一定の障害を持つ65歳から74歳の人は後期高齢者医療制度に加入しています。一方、国民健康保険は、自営業者、フリーランス、職についていない方など、会社に勤めていない人が加入する医療保険制度です。
日本の国民皆保険制度は世界的にも高い評価を受けており、2000年には世界保健機関(WHO)から総合点で世界一と評価されました。日本は世界トップクラスの長寿国であり、乳児死亡率などの健康指標でも首位を占めています。これらの実績から、日本の医療制度は世界に誇れるものと言えます。
日本の国民健康保険制度は、全ての国民が平等に医療を受けられることを目的としています。しかし、近年この制度を維持することが困難になってきています。主な原因は、医療費の増加と少子化です。
日本の国民医療費は毎年1兆円に迫るペースで増え続けています。医療技術の発達により高度な治療が可能になった一方で、そのぶん医療費も上昇しています。また高齢化によって医療の需要が増え続けており、これも医療費増加の一因となっています。1950年以降、65歳以上の高齢者人口の割合は増加し続け、2016年には団塊の世代が65歳以上となり、超高齢社会を迎えました。2022年には、高齢者が総人口の29.1%を占めるに至っており、現行の仕組みで国民保険制度を維持することは困難です。
高齢化と並行して進む少子化も、医療保険制度の収入と支出のバランスを大きく崩す原因です。少子化によって健康保険料を納める現役世代の数が減少している一方で、高齢者の医療機関利用が増えるため、医療費給付が増加します。その結果、保険料の引き上げが避けられなくなり、現役世代が高齢者医療を支える構造に限界が見え始めています。これにより現役世代の負担が過重になり、国民皆保険制度の維持が難しくなることが懸念されます。
※年齢階層別の人口の増加率や、それに係る医療費の動向について詳しくは、基礎資料.厚生労働省.2024内の「人口と医療費の動向等」の項をご参照ください。
国民健康保険料の負担軽減措置として、以下の取り組みが行われています。
低所得者に対する保険料軽減制度が強化され、年間約4,400億円の支援が行われています。国が1/2、都道府県が1/4、市町村が1/4を負担し、所得に応じた保険料軽減措置がとられます。具体的には、対象者の所得条件によって、7割・5割・2割の減額段階が設けられており、低所得者層の負担が大幅に減少。経済的に厳しい家庭でも医療保険に加入しやすくなっています。
倒産や解雇など、自分の意思に関係なく職を失った場合には特別な軽減措置が設けられています。失業時から翌年度末までの期間、前年給与所得の30%で保険料が算定され、失業中でも安心して医療を受けられるようにサポートされます。
2022年から未就学児に対する均等割保険料の半額を公費で支援する制度が導入されました。この制度により、子育て世帯の負担軽減が図られています。
※国民健康保険料の負担軽減措置や、それに係る自治体への財政支援の拡充について詳しくは、基礎資料.厚生労働省.2024内の「3.国民健康保険」の項をご参照ください。
厚生労働省は、2024年度から国民健康保険の年間保険料の上限を2万円引き上げる方針を固めました。これにより、医療の基礎賦課額、後期高齢者支援金賦課額、介護納付金賦課額の合計上限額は106万円になります。この動きは2022年度の3万円、2023年度の2万円に続く、3年連続の保険料上限引き上げです。
国民皆保険制度を維持するためには、保険料収入の増加と医療費給付の削減が不可欠です。現役世代の保険料引き上げや、高齢者の医療費負担の増加、診療報酬の改定や薬価引き下げなど、すでに実施されている対策もあります。それでも収支バランスが改善しない場合には、より踏み込んだ改革が必要となるでしょう。
例えば、高齢者世代と現役世代の人口動態に対応した持続可能な仕組みを構築し、現役世代の負担が急増しないようにする方策が検討されています。具体的には、介護保険制度を参考にして、高齢者の保険料と現役世代の後期高齢者支援金の伸び率を一致させる負担設定方法の見直しが考えられています。
※国民健康保険制度の取組強化や、見直し内容について詳しくは、基礎資料.厚生労働省.2024内の「医療保険制度の見直しの状況」の項をご参照ください。
この記事では、国民健康保険の仕組みと今後の見通しについて解説してきました。国民健康保険制度は、多くの国民に高度な医療を比較的安価に提供する重要な基盤です。しかし、制度の維持には少子高齢化に係る課題が存在します。今後も国民一人ひとりが健康で安心して暮らせる社会を築くためには、制度の改善と持続可能性の確保が重要です。この記事を参考に、お住まいの地域の国民健康保険制度の現状や課題について理解を深め、地域の取り組みや改善策について考えるきっかけにしていただければ幸いです。
【参考資料】
国民健康保険制度.厚生労働省.2024
基礎資料.厚生労働省.2024
令和3年度国民健康保険(市町村国保)の財政状況.厚生労働省.2024