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就農支援を行う自治体の成功事例|移住誘致の新潮流

作成者: にしのやすひろ|2024/03/06 1:06:47

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地域の人口を維持し若返りを図るために、地域外の若年層を対象にした就農支援が注目を集めています。この記事では、若者の就農に対する意識の変化や、就農支援が移住につながった自治体の事例を解説していきます。最後までお読みいただき、遊休農地の課題や住民の高齢化への解決策の一環として、参考にしていただければ幸いです。

若年層の農業に対する意識の変化

高齢化が加速していることを受け、農業従事者の総人口は減少傾向にあります。しかし農林水産省の「2020年農林業センサス」によれば、20〜49歳の若年層における農業従事者は増加傾向にあることが分かりました。この変化は、若者たちの価値観の多様化に起因していると考えられています。

かつての農業はマイナスイメージがつきまとう仕事でしたが、現在では農業に対する新たな視点が広がりつつあります。若者たちは単なる生計手段ではなく、自己実現や主体的なビジネスとしての価値を農業に見いだしています。社会全体が終身雇用主義から個々の価値観やライフスタイルを重視する方向に変わってきた影響が大きいでしょう。

また技術進化の面でも若者の関心を集めています。スマート農業などの先端技術が導入され、環境制御システムやドローン防除などによって農作業の効率が向上。作業の省力化も可能になっています。これにより農業は将来性のある仕事として再評価されています。

自治体の就農支援で移住を誘致

全国の耕作放棄地面積はこの30年で約6倍に増加し、農業の衰退や遊休農地の増加が進んでいます。高齢化や後継者不足に歯止めが効かず、新たな農業の担い手確保は自治体にとって大きな課題になっています。

しかし、一部の自治体では独自の就農支援によって担い手の確保に成功しています。移住者が新規就農を容易に始められるとともに、町の人口の維持や若返りに寄与するため、お互いに恩恵を受けられる取り組みとして注目されています。

新規就農を目指す若者が農業を始めやすい環境、そして選ばれる自治体になるための施策整備が求められています。各自治体がそれぞれの課題に応じて、柔軟かつ効果的な支援策を講じる必要があるでしょう。

埼玉県宮代町の事例 ~宮代町農業担い手塾~

宮代町は、農業従事者の減少と耕作放棄地の増加という厳しい現状を打破すべく、平成23年に「宮代町農業担い手塾」を創設しました。

宮代町農業担い手塾では、新規就農者に向けた3年間の研修プログラムが用意されています。初年度から利益を上げることが難しい現実を踏まえ、1年目には月額125,000円の奨励金が支給されます。ベーシックインカムの支給は初めて就農する人にとって大きな安心材料です。経済的な不安を抱えずに研修に専念できる環境が整えられ、就農希望者の呼び込みが促進されています。

宮代町はこれまでに6人の新規就農者を輩出し、直売所などの流通面も整え、農業の活性化に向けて積極的かつ継続的な支援を行っています。

福井県若狭町 ~かみなか農楽舎~

若狭町は、米作地帯に共通する課題である農家の高齢化や後継者不足、それに伴う遊休農地の増加に悩まされていました。問題解消を目指し、農業生産法人「かみなか農楽舎」を設立。町・設計会社・農地提供者の三者が共同出資する形でスタートさせました。

かみなか農楽舎では、1年目は座学と実習を通して作物の育成販売などを経験し、2年目は自ら計画を立てて、自分で田んぼや畑を管理し、育て、価付けや販売まで行います。この2年間は地域の一員として生活することが基本方針となっています。単純な移住では田舎の文化になじまないまま再度転出されてしまったケースもあり、町ぐるみで居場所を提供する取り組みです。

外部からの就農者が少ない稲作農業において、かみなか農楽舎は認定農業者などと組んだ就農という独自の方法により、都会から来る若い担い手の確保に成功しています。卒業生の約半分である27名が若狭町で農業に関わる仕事をし、定住しています。この成功事例は他の地域にも示唆を与え、地方振興の一助となるでしょう。

就農は移住とセットで支援する体制を

地方移住を促進し地域の活性化を図るためには、就農支援だけでなく、移住全体をサポートする総合的な体制が必要です。具体的な住環境や生活基盤に加え、地域全体の魅力を伝え、移住者にはっきりとしたビジョンを提供することが重要です。

まず住む場所の基本的なサポートが欠かせません。住める家があるか、近くに病院はあるか、子どもの学校や公共交通機関の整備は十分かなど、生活を安心して始めるためにはこれらの基本的な要素が整っていることが不可欠です。

また地域全体の魅力をアピールすることも重要です。自然の美しさや観光資源など、地域の特長を十分に伝え、移住者がその土地での生活をイメージしやすくする必要があります。

これには農業体験や移住体験イベント、インターンシップなどを積極的に実施することが有効です。移住希望者が地域の実際の生活やコミュニティと触れ合い、自身の生活に対する具体的なイメージを持つことができます。お互いのミスマッチを防ぎ、より適切な地域選定につながります。

ハード・ソフトの両面で地域づくりを考え、就農以外の移住支援制度の拡充も図り、就農希望者のニーズを拾い上げる体制を整えていきましょう。

価値が見直されている農業で地域の魅力を掘り起こそう

この記事では、埼玉県宮代町と福井県若狭町を例に挙げ、農業の担い手を増やす自治体の取り組みについて解説してきました。農的な生き方の選択は、主体的な仕事としての魅力や手の届く範囲での生活スタイルとして、既に「付加価値がある」ものとして認識されています。この記事で紹介した先進的な事例を参考にして、ぜひお住まいの地域の魅力を打ち出す働きかけのきっかけにしていただければ幸いです。

【参考資料】
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/noucen/2020/index.html
https://www.town.miyashiro.lg.jp/0000017899.html
https://www.town.fukui-wakasa.lg.jp/soshiki/norinsuisanka/gyomuannai/524.html