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自治体DXは、行政サービスの効率化や住民の利便性向上、さらには地方経済の活性化を目指す上で重要な課題となっています。しかし、自分の地域がどのようにDXを進めるべきか、ほかの自治体の進捗状況を参考にしたいという方も多いでしょう。この記事では、最新の「自治体DX・情報化推進概要」に基づいた情報を元に、フロントヤード改革や情報セキュリティ対策などをはじめとした7つの項目について、現在の自治体DXの進捗状況を解説いたします。ぜひ最後までお読みいただき、自分たちの取り組みを評価・改善する際の参考としてご活用ください。現状の進捗をしっかりと把握し、今後のDX推進に役立てていただければ幸いです。
自治体DXを推進するための組織体制は、CIO(情報化統括責任者)の任命から始まり、CIO補佐官やCISO(情報セキュリティ統括責任者)の任命に至るまで、様々な役職が設置されています。CIOを任命している市区町村は1,270団体(73.3%)であり、CISOを任命している市区町村は1,733団体(93.5%)となっています。DX推進専任部署の設置は、都道府県では47団体すべてで、市区町村では902団体(52%)で設置されています。組織体制の整備はDX推進の重要な基盤となっており、多くの自治体で積極的に取り組まれています。
職員の育成に関して、DXや情報化を推進するための研修が実施されています。全市区町村のうち、研修を実施しているのは82.9%です。研修内容としては、基礎的なDXの認識共有や意識啓発から始まり、デザイン思考(UI/UXデザイン)、RPA・AIの基礎知識、セキュリティ対策の研修などが提供されています。これにより職員のスキルアップが図られています。
市町村のDX推進を支援するために、都道府県ではさまざまな取り組みを行っています。具体的には技術的な支援や人材育成、情報共有のための仕様調整などが挙げられ、47都道府県全てが何かしらの市町村支援を実施しています。
自治体がDX推進のための全体方針を策定している例は多く、都道府県では全団体、市区町村では862団体(49.7%)が行っています。方針には具体的な目標設定や進捗管理の方法が含まれ、自治体全体でDXを推進するための枠組みが整備されています。例えば行政手続のオンライン化を促進するための取り組みや、住民サービスのデジタル化に向けた具体的なアクションプランが策定され、それぞれの取り組みごとに工程表が作成され進捗管理が行われています。
住民との接点を多様化するための取り組みとして、総合案内の設置やキオスク端末の導入が行われています。総合案内を設置している市区町村は962団体(55.5%)、キオスク端末の導入は945団体(54.5%)となっています。また指定都市に設定されている20団体では、手続き案内システムやワンストップ窓口・書かない窓口などの導入も進んでおり、行政サービスの利用がより便利になっています。
申請処理に関するデータの分析は、処理件数の多い時間帯や時間を要する工程における人員体制の強化などにつながり、住民サービスの改善に役立つ可能性があります。しかしデータを把握している市区町村は795団体(45.9%)であり、そのうち分析・活用にまで適応できている市区町村は104団体(22.1%)にとどまっています。また、指定都市・中核市とそれ以外の自治体の間にも対応の差が見られ、今後の課題となります。
庁舎の空間利用についても改革が進められています。オープンな環境整備が徐々に進んでおり、相談スペースの拡充や記載台の撤去、待合席の縮小などが行われています。ゆとりのある空間が生まれるとともに、書類を提出しない窓口や総合窓口などの導入も進んでいます。
行政手続きのオンライン化に関して、市区町村の1,079団体(62.3%)が何らかの形でオンライン申請システムを導入しています。オンライン申請システムの導入により、住民は時間や場所に関係なく手続きできるようになり、利便性が大幅に向上しています。2022年度の年間手続き総件数は49,909万件であり、そのうちオンライン利用は57.6%の28,735万件となっています。
情報セキュリティ対策の一環として、CSIRT(情報セキュリティインシデントに対処するための体制)の整備が進められています。全自治体のうちCSIRTを整備しているのは、都道府県で全団体、市区町村では1,397団体(80.2%)となっています。CSIRTの役割は、情報セキュリティインシデントの迅速な対応と、予防策の策定です。セキュリティインシデント発生時の対応手順の策定や、定期的なセキュリティ診断の実施などを行い、情報セキュリティ対策の強化が図られています。
人的セキュリティ対策として、職員に対するセキュリティ教育や訓練が実施され、意識の向上が図られています。市区町村の1,451団体(83.3%)が情報セキュリティ研修を実施しており、リスクを正しく理解し、適切な対応ができるように対策しています。
情報システムの調達および運用時には、セキュリティ要件を厳格に設定し、適切な管理を行っています。具体的には、委託事業者に対する情報漏えい防止策を契約で義務付けたり、情報資産の調達時には、仕様書などに情報セキュリティポリシーに基づいた要件を記載し、管理しています。これにより、システムの脆弱性を低減し、情報漏洩のリスクを最小限に抑えています。
情報セキュリティ対策の有効性を確認するために、定期的な監査や点検が実施されています。これらの監査や点検は、セキュリティ対策の実施状況を評価し、改善点を見つけ出す役割を果たしています。自治体の中には、内部監査チームを設置しているところが多く見られ、それにより継続的なセキュリティ対策が実施されています。
都道府県では全ての団体が、市区町村では978団体(56.2%)がICT-BCPを策定しています。ICT-BCPは、災害やシステム障害が発生した際にも業務を継続するための計画であり、重要な役割を果たします。具体的には、データバックアップの確保や代替システムの構築などが行われ、また、机上演習に取り組む自治体もあり、非常時でも行政サービスを提供し続ける体制構築が進められています。
AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入が進んでいます。AIは全都道府県で導入され、市区町村では791団体(45.4%)が導入しています。一方、RPAは全都道府県の44団体(93.6%)、市区町村の641団体(36.8%)が導入しています。AIを活用した問い合わせ対応システムや、RPAを利用した定型業務の自動化などが行われており、これにより職員の負担軽減や住民サービスの向上が期待されています。
テレワークは、都道府県の全団体および、市区町村の1,055団体(60.6%)で導入されています。テレワークの普及により、職員の働き方が柔軟になり、ワークライフバランスが向上します。具体的には、在宅勤務の環境整備やリモートアクセスシステムの導入が行われています。
自治体DXでは、誰もがデジタル化の恩恵を受けられる環境整備が必須です。デジタルデバイド対策として、全都道府県では44団体(93.6%)、市区町村では1,197団体(69.1%)が、高齢者や障がい者などのデジタル機器利用に不安を感じる住民に対する支援を行っています。デジタルデバイド解消のための講習会の開催や、サポートデスクの設置、デバイスの購入補助などが行われています。
自治体のホームページは、住民への情報提供において重要なツールとなっています。各自治体のサイトでは、意見や要望を受け付けるフォームの設置や、パブリックコメントや例規の公表を通じて、住民の参加と行政の透明性を確保しています。さらにほとんどの自治体で、スマートフォンに対応したレスポンシブな設計や多言語対応が完了しており、ユーザビリティーの向上が進んでいます。
人事給与システムや財務会計システム、文書管理システムにおける電子決裁の導入が進んでいますが、市区町村においてはいずれのシステムも、30%前後の導入率にとどまっています。各種申請書や報告書の電子化は、迅速な承認や情報の検索が容易になるため、住民と職員の双方の観点からも早期の導入が求められています。
都道府県で29団体(61.7%)、市区町村で1,093団体(63.1%)が被災者情報管理システムを導入しており、迅速かつ正確な情報把握を可能にしています。消防庁が提供している安否情報システムや民間事業者が提供する業務支援システムによって、支援活動の効率化が図られています。
統合型地理情報システム(GIS)の整備が進んでおり、都道府県では25団体(53.2%)、市区町村では1,142団体(65.9%)が既に導入しています。GISは電子地図の上に情報を重ねて、編集や検索、分析、管理を行えるシステムです。土地利用状況の把握や、防災計画の策定においてGISが活用されており、効率的な行政運営が可能になります。
この記事では、自治体DXの最新の進捗について解説いたしました。フロントヤード改革や情報セキュリティ対策をはじめ、住民の利便性向上や行政サービスの効率化に取り組む自治体のデータを活用し、ぜひお住まいの地域のヒントとしてご活用ください。自治体DXは、市民の生活をより豊かにし、行政サービスの効率化を図るための重要な取り組みです。この記事を参考にして、お住まいの地域の現状を把握し、さらなるDX推進のための施策を検討する一助としていただければ幸いです。
【参考資料】
自治体DX・情報化推進概要について.総務省.2024
令和5年度地方公共団体における行政情報化の推進状況調査の取りまとめ結果.総務省.2024