issues(イシューズ)の米久です。
DVやストーカー、性被害、生活困窮などの問題を抱える女性を支援するため、昨今の女性を巡る課題を反映させた新法「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が、令和6年4月1日に施行されました。本記事では、様々な困難を抱える女性たちの現状や、新法があることで今後どのように変化するのか、そして「困難な問題を抱える女性支援基本計画」を策定、公表している一部の自治体について解説します。
ぜひ最後までお読みいただき、全ての女性の人権が尊重され、自立して生活ができる社会づくりの施策例としてご参考にしていただけますと幸いです。
「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(令和4年法律第52号)とは、年齢・障害・国籍等を問わない全ての女性の人権が尊重され、安心して、かつ、自立して暮らせる社会の実現のため、支援の枠組みを構築、強化する新法です。
昭和31年に制定された売春防止法を法的根拠に「売春を行うおそれのある女子を保護更生」を目的としており、女性の福祉や自立支援等の視点は十分ではありませんでした。しかし、67年前の法制定以来、一度も改正されることはなく、その結果、昨今の女性を巡る課題の多様化・複雑化・複合化には、売春防止法に基づく従来の枠組みでは十分対応ができていないという制度的限界が起こりました。
女性を取り巻く環境が大きく変わる中、困難な問題を抱える女性支援の根拠法を「売春をなすおそれのある女子の保護更生」を目的とする売春防止法から脱却させ、先駆的な女性支援を実施する「民間団体との協働」といった視点も取り入れ、対象者の包括的な支援制度として新法が施行されました。
この法律において「困難な問題を抱える女性」とは、性的な被害、家庭の状況、地域社会との関係性その他の様々な事情により日常生活又は社会生活を円滑に営む上で困難な問題を抱える女性(そのおそれのある女性を含む。) と定義されています。(引用:e-GOV法令検索)
◉厚生労働省|「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」について
様々な背景や困難を抱える女性は、生活困窮、身体的精神的DV、ストーカー被害、性暴力・性犯罪被害、人身取引被害や家庭関係破綻、近年ではAV出演強制、JKビジネスなど、課題は複雑化・多様化・複合化しています。
また、新型コロナウィルス感染拡大防止のため、外出自粛や収入が大幅に減ったことなどが原因で、居場所のない孤立した若年女性たちの存在や課題が顕著化しました。
令和4年度女性相談支援センターが受付けた来所相談の内容は、「夫等からの暴力」55.9%となり、「夫等」「子・親・親族」「交際相手等」の3つを合わせると、全体の約7割を暴力被害の相談が占めていることが分かりました。
こうした状況の中、「私にも悪い所があった」などSOSを出せずにいる女性や、深刻な被害に遭っているにも関わらず他所のさらに酷いケースと自分の状況を比較し「私は大丈夫」と、計り知れない影響に気付いていない女性は少なくありません。
新法では、全国どこにいても、困難な問題を抱える女性が適切な支援を受けられる体制を整備する必要があるとしています。都道府県に対して「女性支援センター」の設置を義務づけ、民間団体と協働して対象となる女性の相談対応や一時保護のほか、「女性自立支援施設」にて心理的ケアや自立支援等を行います。また、「女性相談支援員」を女性相談支援センターや福祉事務所等に設置し、対象者の援助等を実施します。都道府県は各地域の特性を考慮し、ニーズに応じた必要な施策を講じる必要があります。
また、国や自治体だけでなく、市町村が多くの支援の実施主体として、関係機関や民間団体等の様々な機関と連携・協力をして、当事者中心の包括的でより適切な支援に結び付けることが求められます。一人一人のニーズに応じ、訪問、巡回、居場所の提供、インターネットの活用、手続き等の関係機関への動向、そしてアウトリーチなどによる情報の把握を行い、助けを出せずにいる女性や、支援を必要としている女性の早期発見、相談等の支援につなげることが必要です。
次に、「困難な問題を抱える女性支援基本計画」について策定、公表している自治体の一部事例2つを紹介します。
埼玉県は、困難な問題を抱える女性支援の推進にあたって、「女性の人権を尊重する県民意識の情勢は必要不可欠」とし、女性の人権を尊重する県民意識の醸成を図るとしています。
具体的な内容は、
■県男女共同参画推進センターを拠点とする固定的性別役割分担意識の解消に向けた広報・啓発活動
■女性に対する暴力根絶のための意識啓発
■生涯にわたる性と生殖に関する健康と権利に基づく取組の促進として、妊娠・出産・不妊に関する正しい知識等の啓発や、予期せぬ妊娠等の悩みに対する相談対応
■幼児期から子どもの発達段階に応じた学校等での性暴力被害防止についての教育・啓発や、教員に対する研修等の実施
埼玉県は、性暴力・性的被害は男性よりも圧倒的に女性が被害に遭いやすく、予期せぬ妊娠等の女性特有の問題の存在、出産、育児により就業が途切れやすいといった状況があり、就業が不規則・不安定にならざるを得ないことから経済的困窮、社会から孤立・孤立する恐れがあり、様々な困難を抱える環境に陥る可能性が考えられると懸念しています。この背景には、女性の人権の軽視、固定的性別役割分担意識や偏見があることから、これらの問題の解消や暴力の根絶等に向けた支援を実施します。
大阪府は、婦人相談員設置市の数不足や、配偶者暴力センターの認知度が高いとは言えない状況があります。支援体制の課題として、相談や支援ニーズに十分対応できていない可能性があることや、一時保護が必要であった人が、一時保護につながらなかった可能性があるとしています。また、民間団体との連携不足と連携場面も限定的なことも問題として挙げています。
以上のことから大阪府では、関係機関との連携強化や支援する側の待遇の配慮等も踏まえた下記内容を基本目標としています。
■全ての市町村で女性相談機能の構築を促進(目標:女性相談支援員の配置市数14市→全33市に配置)
■全ての女性相談支援員が、任用されてから6か月以内に初任者研修受講(目標:新規→受講率100%)及び中堅職員(主に3~5年目以降)の研修の充実。また、市町村の女性相談支援員が孤立しないよう、スーパーバイズできる体制の構築。
■女性支援に必要な関係者や支援者が参画する会議、支援調整会議の開催を促進(目標:新規→16市町村)
■市町村への民間団体の活動内容等の情報提供を進めるなど、市町村等と民間団体との連携を促進(目標:8市→16市町村)
■困難な問題を抱えた女性が相談支援に容易につながるよう、女性相談窓口を掲載する府ウェブページを開設。(目標閲覧数:新規→30,000PV)また、配偶者暴力相談支援センターの認知度向上のため府民への啓発実施(目標:20%→25%)
本記事では、令和6年4月1日に施行された「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」とは何か、昨今の女性を取り巻く環境について、施行後何が変わるのか、一部の自治体の女性支援基本計画について解説しました。
「なぜ女性だけが支援対象なのか」「男性も困っている人はいる」「男性差別法だ」「新たな不法滞在者を招くことになる」等の批判的な声は少なくありません。
様々な困難を抱える女性を必要な支援につなげ、切れ目のない支援と自立を促進するためには、女性の人権を尊重する社会的気運の醸成を図り、女性相談支援員等の支援する側へ研修機会の提供や待遇改善も重要となるでしょう。