三重県多気町では、県内の自治体で初めて家庭での保育にも補助金を給付する制度が導入されました。この政策に20年ほど前から注目し、他自治体への導入に取り組むのが三重県議の石田成生さんです。
自治体や社会の将来のあるべき姿を描き、政策実現をしていくこと。これは政治家の重要な役割のひとつです。同時に、さまざまな政策を推進するにあたって「平等な選択になっているのか?」という視点も欠かせないと石田さんは話します。今回は石田さんに、家庭保育への補助金に注目したきっかけや導入に向けて工夫されている点などを伺いました。
石田成生さん(63)プロフィール
三重県議会議員 4期目
1960年生まれ
自民党
選挙区:四日市市
ー今日はお忙しいところ、ありがとうございます。まずは、自己紹介をお願いします。
大学を卒業した後、議員秘書になりました。とはいえ、議員になるつもりはなく、あくまでも就職先としてだったんですけどね(笑)。
それが、議員に間近に接するうちに、近しい存在になっていきました。そこで、38歳の時に四日市市議選挙に挑戦し、初当選。2期務めました。そのあと、県議会議員に転身を図りましたが、最初の選挙では落選。その次の選挙で当選し、今は4期目です。
ーなるほど。段々と政治が身近になっていかれたのですね。
そうですね。大勢の人が「こういう政治にならないかな」と言っているのに、なぜそうならないのだろうか。それを自分で見てこようという気持ちもありました。実際になってみると、少数の反対意見の裏には、多くの「静かな」賛成意見があるということも分かりました。
ー現在、力を入れている政策について教えてください。
短期的な政策よりも、長期的な政策に重点を置いています。
例えば、新しい道路をつくるとか、信号機を増やすとかいうニーズもありますよね。もちろんそれも大切ですが、見えやすい課題なので解決もされやすいです。私はそれよりも、「社会が向かっている方向が正しいのか?」という視点をもっと大切にしています。あるべき将来の社会の姿、人の生活を描いて、その方向に舵を切っていくことですね。
ー確かに、未来に責任をもつ政治家として欠かせない視点ですね。石田さんが実現に取り組んでいる家庭保育へ補助金を給付する政策も、そうしたお考えに基づいているのでしょうか。
そうですね。三重県内では、多気町で昨年度から始まりました。
この制度は、1歳~3歳未満の子どもを家庭で保育する世帯に、子ども1人あたり月額2万円が給付されるという仕組みです。両親が働いていて、おじいちゃんやおばあちゃんが世話をしている世帯も対象になります。
四日市市議会議員だった2005年に、同じ趣旨の政策を提案したのですが、その時は実現できませんでした。しかし、県内の自治体の導入実績ができたので、市議と連携して四日市市をはじめ他の自治体にも導入していきたいと考えています。
ーこの政策に着眼したきっかけはなんだったのでしょうか?
私が市議会議員として初当選した2000年頃は、女性活躍や女性の社会進出という言葉が出始めた頃でした。それに伴って、待機児童、延長保育、休日保育という課題も出てきました。
こうした保育制度の拡充は、子育て支援でもあり、女性の就労支援という側面もあるんですよね。
もちろんこうした社会の動きと価値観は否定できないですが、私は幼い頃こそ家庭で両親と一緒に過ごすことが大事だと思っています。実際にそうしたニーズもあります。
ざっくりとですが、子どもを保育園に預けると、一人あたり年間で約80-90万円の税金が使われている計算になります。一方で、家庭で育てたいという人には税金による補助がない。
選択の自由であるならば、両方の選択に公費を入れて支援すべきではないかと思ったんです。片方だけに税金を投入すれば、純粋な選択にならないですからね。
ー市議会で提案してから約20年越しに動き出した政策ですが、どのような点に苦労されていますか?
価値観に関わる点だということでしょうか。政治は、国民や市民の価値観に介入することはできません。
先ほども申し上げたように、政治家はあるべき姿を描いて、そちらに舵をきらなければいけない。ですが、あるべき姿と多くの国民の価値観に乖離があるほど、その実現は難しいですよね。だからこそ、補助金などをつけて政策誘導する必要も出てくるんです。
例えば、いくら環境保護が大事でも、「高くてもエコカーを買おう」とはなりません。補助金があるから、買おうとなるんですよね。
本来は、食や子育てというテーマは国が主導するのではなく、国民がみずからが将来のあるべき姿に向かっていくということが望ましいと思っています。
ー実際に、政策実現に向けてどのような工夫をされていますか?
「口を借りる」「名前を借りる」と他者に伝わりやすいです。
要は、「著名な○○さんという学者やジャーナリストがこう考えている」ということですね。そうすることで、自分ひとりの個人的な問題意識ではないということを伝えられます。「社会全体の課題である」「研究結果で証明されている」という裏付けをすることで、中立的に聞いてもらえます。
ー参考になります。最後に、今後取り組んでいきたい政策を教えていただけますか?
やはり、「将来のあるべき社会の姿」という正しい方向性に向かって舵をきっていくことです。
根底には、「人は何によって幸せを感じるのだろうか?」という考えがあります。それは、やっぱり人と人との関わりですよね。特に身近な人と笑顔で暮らすということは、幸せの根源的なところなのではないでしょうか。財産や地位、名誉は周辺的なものにすぎないのだと思います。
どれだけ進むかということより、どこへ向かっていくかを大切にしていきたいですね。