issues|イシューズ ブログ

介護保険料上昇にストップ!保険料削減に繋がる先進事例3選

作成者: 米久熊代|2024/05/17 2:32:58

issues(イシューズ)の米久です。
超高齢化社会が進む日本では様々な課題が浮き彫りとなっており、介護保険料が上昇していることは無視できない問題です。本記事では、介護保険制度の現状と課題について、介護保険料が増加している中で、先進的にこの課題に取り組んでいる自治体3つをご紹介します。ぜひ最後までお読みいただき、地域の介護保険料上昇問題の分析・対策の参考になれば幸いです。

 

介護保険制度の現状と課題

厚生労働省によると、65歳以上の高齢者が2024年~2026年度に納付する介護保険料が、月額6,225円(全国平均)と過去最高を更新すると発表しました。介護保険制度がスタートした第1期(2000年~2002年度)の2,911円のおよそ2倍となります。保険料が最も高い自治体は9,249円、最も低い自治体は3,374円と自治体間での差は約6,000円になります。

超高齢化社会が進む日本では、介護を必要とする高齢者の増加や、長期にわたる介護も多くなるなど介護保険料が増加し財政状況は厳しくなっています。また、介護職員の賃上げなどの介護報酬が引き上げられたことも介護保険料増加の要因になります。介護保険制度は制度創設以来、サービス利用者は約3.4倍に増加し、要介護(要支援)の認定者数は、平成12年度末~令和元年末の20年間で2.6倍になりました。

2025年以降、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり増加していく一方、介護保険料を負担する40歳以上の人口は減少します。多様化する介護ニーズに対し介護保険料の引き上げだけでは対応できなくなる未来が見える中、地域全体での支援体制の整備が必要になります。介護保険の財源確保の策として様々な案が考えられますが、国民に負担が少ないとして、生活支援サービスの充実や介護予防の推進を図ることで、介護保険料の削減につながることが期待されています。

第9期計画期間における介護保険の第1号保険料について|厚生労働省|令和6年

介護保険制度をめぐる最近の動向について|厚生労働省|令和4年

 

先進事例3選!介護保険料削減につながる取組とは

介護保険料の削減につながることが期待されている「介護予防の強化」「生活支援サービスの充実」に焦点をあて、先進的な取組をしている3つの自治体についてご紹介します。

 

大阪府大東市

大阪府大東市では、市内全域で地域住民が主体となった「介護予防事業」と「介護専門職以外の新たな支え手の確保」に取り組んでいます。筋力や認知機能等の心身の活力が低下し、生活機能障害や要介護状態にある虚弱高齢者が元気高齢者(高齢者ボランティア)のサポートにより元気を取り戻し、小学校の下校時の見守り隊に参加するなど社会活動に参加する他、住民主体型の生活サポート事業を実施しています。

●「大東元気でまっせ体操」を通した介護予防
虚弱高齢者もできる「大東元気でまっせ体操」を開発し、住民主体による高齢者の通いの場として週に1回定期的に実施。市民グループは120団体を超えます。運動だけでなく、孤立の危険性がある高齢者の交流の場としても活用されており、心と身体の健康アップに期待ができます。身体障害者や関節痛により体操を同じようにできない人に対しては、市のリハビリ職員が訪問し痛みがでない運動法の指導を行っています。認知症や高次脳機能障害、精神障害などで集団活動に何かしらの問題が生じた時には、地域包括支援センター職員が出向いて、認知症の方への対応方法等を世話役に指導するなど、専門職も関与しながら適切に運用しています。

グループ内に虚弱高齢者がいることで、単なる体操グループではなく、困りごとの助け合いや見守り活動が自然と広がるようになりました。参加者がご近所同士の場合、車で買い出しに行く際には虚弱高齢者に声をかけて一緒に行くことや、ごみ出しの日に一緒に出してあげる、理由なく欠勤している人がいる場合は家に様子を見に行くなど、介護予防を通して地域全体に助け合いの和が広がっています。

●生活サポート事業
日常のちょっとした困りごとを抱えている高齢者に対して、養成講座を受けた住民ボランティアである生活サポーターが対象者の自宅に訪問し生活支援を行うサービスです。

生活サポート事業の内容は、掃除・ゴミ出し・買い物・布団干し・草むしり・外出の付き添い・スマートフォン操作サポートなど、介護保険では対応できない支援も可能になることが特徴です。利用料は30分250円と安価となっています。

生活サポーターは18歳以上(高校生不可)で、毎月開催されている養成講座を受講し登録することで活動ができます。活動時間に応じて謝礼金(30分以内250円)または時間貯金の選択が可能です。時間貯金とは、65歳以上になった時に、活動した時間を利用して優先的に生活サポート事業を無料で受けることができます。

生活サポート事業を通して、介護専門職以外の新たな支え手の確保と介護保険の上手な使い方を知るきっかけ作りを実現しました。

大東市の実践報告~とことん住民主体~|厚生労働省|平成28年

 

愛知県武豊町

愛知県武豊町では、地域の中で高齢者の健康づくり推進を目的とし、高齢者が歩いて通えるよう徒歩15分圏内を目標とする「憩いのサロン」事業を拡大、整備を行っています。町、社会福祉協議会、地域包括支援センター、近隣の大学が協働で一次介護予防事業として平成19年度から運営をスタートさせました。

「憩いのサロン」とは、身近な場所で高齢者が社会活動できる場であり、年齢を問わない地域のボランティアが中心となって活動を支えています。事前の申し込みは不要で自由に参加ができ、体操や脳トレ、歌、季節の行事、おしゃべりを楽しむ場としても親しまれ、高齢者の生きがいや健康づくりとして結びつけることができています。

町は、住民ボランティアに対して、サロン立ち上げ支援、ボランティアの育成、PR・場所・資金等の運営支援を実施。地域で互いに支え合う仕組みづくりに取り組んだ結果、住民が主体的に参加し社会活動をする場として機能することで介護予防につながっています。

憩いのサロン(武豊町)|介護サービス情報公表システム

 

長崎県佐々町

長崎県佐々町では、介護保険サービスの受給率が年々高い率で推移した結果、第5期介護保険料は長崎県内で最高となりました。要因として、要支援1~要介護1の軽度者の利用割合が高く、次第に重度化していくことが分かりました。町は、これらの課題に対応するため、中高年齢層を対象とした介護予防ボランティアを養成しています。介護予防ボランティアが、生活支援や通所の場で担い手として活躍しています。

●介護予防
地域包括支援センターによる介護予防の普及啓発を行ったものの、単発の講話では開催頻度や会場を増やすことは難しく、職員の関与なしには地域のサロン事業は自然消滅してしまう可能性がありました。そこで、住民の主体的取組につながるよう自主活動の育成に主眼を置いた養成講座を実施。養成講座では、介護予防の考え方について理解を深めることに重点を置き、地域で実施するための体操などを実習に取り入れました。養成講座の修了生による自主的な介護予防活動に取組み、初年度には8地区で集いの場が立ち上がり現在も数を増やしています。

●様々なニーズに応える通所事業

長時間型の介護予防を目的とした生活向上プログラム「生きがい教室」、運動指導士による日常生活の自立を図る「運動個別指導」、短時間型で高齢者の趣味活動の場とする「はつらつ塾」、男性を対象とした「おとこ料理クラブ」、農作業を通して介護予防を図るとともに農作物を生産販売することで地域交流ができる「カントリークラブ」など、高齢者のニーズに応じた様々な通所事業を拡充しています。

●日常生活支援総合事業
養成講座を受けた登録希望者は、佐々町介護予防ボランティアとして登録されます。要支援者の自宅を訪問して、生活行為の自立支援に向けて生活支援サービスを行います。一緒に掃除をする、一緒にごみ出しをする、一緒に調理をする、一緒に洗濯をするなど、要支援者のお手伝いを行うのではなく「改善可能なこと・できることを増やす」「できていることを継続」支援することで、高齢者の自立向上につながり認定率が低下しました。また、地域デイサービスや介護予防活動の開催を実施することで、要支援から改善した場合でも通うことができる場の確保も行っています。

長崎県佐々町の取り組み|厚生労働省|平成26年

 

まとめ

本記事では、介護保険料削減につながる取組をしている自治体として、大阪府大東市、愛知県武豊町、長崎県佐々町の3つの事例をご紹介しました。

介護予防の強化や生活支援事業の充実は「持続可能な制度」という点が重要です。先進事例をヒントに、地域の介護保険料上昇の要因を分析・対策するうえでの参考にしていただけますと幸いです。