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知っておくべき母子保健施策|健やか親子21と成育基本法について

作成者: 米久熊代|2024/05/19 14:38:54

issues(イシューズ)の米久です。
こども家庭庁では、母子保健の国民運動計画として「健やか親子21」を発表し、すべての子どもが健やかに育つ社会実現のため取り組んでいます。また、成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するため成長基本法も施行されるなど、昨今の地域社会において母子保健施策の動向は知っておくべき重要なポイントの一つではないでしょうか。本記事では、健やか親子21の内容や課題、成長基本法ができた背景や変わるポイントについてご紹介します。

健やか親子21とは?

「健やか親子21」は、母子の健康水準を向上させるための様々な取組を、関係者、関係機関・団体が一体となって推進する母子保健の国民運動です。

平成13年より展開されており、平成27年度~令和6年度までを「健やか親子21(第2次計画)」として設定しています。

令和5年度以降は、成育医療等基本方針に基づく国民運動として位置づけ、成育医療等基本方針に基づく医療、保健、教育、福祉などより幅広い取組を推進しています。

 

健やか親子21ができた背景

「すべての子どもが健やかに育つ社会」の実現を目指して設定された健やか親子21は、20世紀に行わ
れた母子保健の取組の成果を踏まえ、残された課題と新しく生じてきた課題を整理し、21世紀のこれから
の時代に必要な母子保健分野の取組を提示するものとして設定されました。

安心して子どもを産み、健やかに育てることの基礎となる少子化対策としての意義に加え、少子高齢社会において、国民が健康で明るく元気に生活できる社会の実現を図るための国民の健康づくり運動(健康日本21)の一翼を担うものになります。

「健やか親子21」概要 |厚生労働省

 

「健やか親子21」の課題と指標

健やか親子21(第2次)は、妊娠・出産・育児期における母子保健対策の充実に取り組むとともに、切れ目のない支援ができる体制を目指す上で、3つの基盤課題と2つの重点課題があり、52の目標とする指標と28の参考とする指標が設定されています。

以下、「健康水準の指標」「健康行動の指標」「環境整備の指標」「参考とする指標」からいくつか抜粋しご紹介します。

基盤課題A:切れ目ない妊産婦・乳幼児への保健対策

妊娠・出産・育児期における母子保健対策の強化を図るとともに、各事業間や関連機関間の連携体制などの構築を行うことで、切れ目のない支援体制の構築を目指します。

【指標】
・妊娠、出産について満足している者の割合
・育児期間中の両親の喫煙率
・産後1カ月でEPDS9点以上を示した人へのフォロー体制がある市町村の割合
・不妊に悩む人への特定治療支援事業の助成件数

※EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票:Edinburgh Postnatal Depression Scale)産後うつ病のスクリーニング検査

 

基盤課題B:学童期・思春期から成人期に向けた保健対策

児童生徒らが、心身の健康に関心を持ち、多分野の稼働による健康教育の推進と次世代の健康を支える社会の実現を目指します。

【指標】
・十代の自殺死亡率
・朝食を欠食する子どもの割合
・地域と学校が連携した健康等に関する講演会の開催状況
・スクールカウンセラーを設置する小学校・中学校の割合

 

基盤課題C:子どもの健やかな成長を見守り育む地域づくり

社会全体で子どもの健やかな成長を見守り、子育て世代の親を孤立させないよう支えていく地域づくりを目指します。

【指標】
・妊娠中、仕事を続けることに対して職場から配慮されたと思う就労妊婦の割合
・主体的に育児に関わっていると感じる父親の割合
・育児不安の親のグループ活動を支援している市区町村の割合
・個人の希望する子どもの数、個人の希望するこども数と出生こども数の差

 

重点課題①:育てにくさを感じる親に寄り添う支援

親子が発信する様々な育てにくさのサインを受け止め、丁寧に向き合い、子育てに寄り添う支援の充実を図ります。

【指標】
・ゆっくりとした気分で子どもと過ごせる時間がある母親の割合
・発達障害を知っている国民の割合
・発達障害をはじめとする育てにくさを感じる親への早期支援体制がある市区町村の割合、市町村における発達障害をはじめとする育てにくさを感じる親への早期支援体制整備への支援をしている県型保健所の割合
・小児人口に対する親子の問題に対応できる技術を持った小児科医の割合

※育てにくさとは、一部には発達障害等が原因となっている場合もあるが、親子関係の要因や支援状況など環境に関する要因もあるなど多面的な要素を含むため、「育てにくさ」の概念は広い。

 

重点課題②:妊娠期からの児童虐待防止対策

児童虐待防止の対策として、妊娠期から出産後の新生児期訪問等、母子保健事業と関係機関の連携強化が必要であることから重点課題の一つとなっています。

【指標】
・こどもを虐待していると思う親の割合
・乳幼児健康診査の受診率
・養育支援が必要と認めた全ての家庭に対し、養育支援訪問事業を実施している市区町村の割合
・児童相談所における児童虐待相談の対応件数

「健やか親子21」の基盤課題・重点課題と目標|こども家庭庁公式HP

 

健やか親子21が抱える課題

厚生労働省が発表した「すこやか親子21(第2次)の中間評価」によると、52指標のうち「目標を達成した」「目標に達していないが改善した」と改善された割合は全体の65%との評価が発表されました。

「変わらない」9.6%、「悪くなっている」7.7%、「評価できない」17.3%となり、詳細は以下の通りです。

「変わらない」該当指標数5つ

①十代の自殺死亡率
②児童・生徒における痩身傾向児の割合
③育てにくさを感じたときに対処できる親の割合 
④歯肉に炎症がある十代の割合
⑤妊娠中、仕事を続けることに対して職場から配慮をされたと思う就労妊婦の割合

 

「悪くなっている」該当指標数4つ

①朝食を欠食する子どもの割合
②発達障害を知っている国民の割合
③児童虐待防止法で国民に求められた児童虐待の通告義務を知っている国民の割合
④特定妊婦、要支援家庭、要保護家庭等支援の必要な親に対して、グループ活動等による支援(市町村への支援も含む)をする体制がある県型保健所の割合

 

「評価できない」該当指標数9つ

①ハイリスク児に対し保健師等が退院後早期に訪問する体制がある市区町村の割合、市町村のハイリスク児の早期訪問体制構築等に対する支援をしている県型保健所の割合
②乳幼児健康診査事業を評価する体制がある市区町村の割合、市町村の乳幼児健康診査事業の評価体制構築への支援をしている県型保健所の割合
③乳幼児健康診査の未受診者の全数の状況を把握する体制がある市区町村の割合、市町村の乳幼児健康診査の未受診者把握への取組に対する支援をしている県型保健所の割合
④ 育児不安の親のグループ活動を支援している市区町村の割合
⑤母子保健分野に携わる関係者の専門性の向上に取り組んでいる地方公共団体の割合
⑥発達障害をはじめとする育てにくさを感じる親への早期支援体制がある市区町村の割合、市町村における発達障害をはじめとする育てにくさを感じる親への早期支援体制整備への支援をしている県型保健所の割合
⑦児童虐待による死亡数
⑧乳幼児期に体罰や暴言、ネグレクト等によらない子育てをしている親の割合
⑨児童虐待に対応する体制を整えている医療機関の数

「健やか親子21(第2次)」の中間評価と成育基本法|厚生労働省

 

健やか親子21の抑えておきたいポイント

健やか親子21(第2次)の設定目標52指標のうち、34指標が改善するなど一定の評価がでている一方、「十代の自殺死亡率」「児童虐待による死亡率」は改善しているとは言えず、引き続き対策が求められます。

学童期・思春期から成人期に向けた保健対策においては、十代の性について関する課題について、男女ともに正しい知識を持つことの重要性が強く指摘されています。教育機関だけでなく、保険や医療の関係者など専門家を講師として活用することで、社会全体で効果的な性教育を行う必要があります。

妊産婦の自殺数が産科的合併症による母体死亡数を上回っていることなど、妊産婦のメンタルヘルスケアも大きな課題です。引き続き、子育て世代包括支援センター等を中心とした多機関連携による支援の充実を図る必要があります。昨今は男性の育児ノイローゼについても注目されています。父親の育児支援や心身の健康に関する実態の把握が必要です。

健やか親子21(第1次)の最終評価では、地域格差、市町村格差という課題が浮き彫りとなりました。この課題をに対し、健やか親子21(第2次)では都道府県や県型保健所の取組に関する指標が設定され、改善することが期待されました。しかし、指標の設定の主旨が都道府県に十分に周知されておらず、母子保健対策における都道府県の役割において共通の認識が不足。各市町村が取組の質の向上を図ることや、都道府県は地域間での健康格差の是正など積極的な支援が求められます。

次に、すべての子どもが健やかに育つ社会を築くための取組として健やか親子21と関係のある「成長基本法」についてご紹介します。

 

成長基本法とは?

成長基本法は、成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する理念法です。

成育過程とは、出生に始まり、新生児期、乳幼児期、学童期及び思春期の各段階を経て、大人になるまでの一連の成長の過程を指します。

法律が制定された背景は以下の通りです。

・急速な少子高齢化が進展する中で、子どもの健全な育成を保障する社会的施策が十分でない。
・医療の提供体制や、保健・福祉制度のサービス実施に関して、地域間の差が生じている。
・母子保健分野と学校保健分野という言葉に代表されるように、子どもに対する支援に連続性がなく、有機的連携が図れていない。

子供の健全な育成は国、地方公共団体、保護者、医療関係者などの責務であることを明記し、教育、福祉等の各分野における施策の相互連携を図るよう規定されています。

成長基本法について|東広島市公式HP

 

成長基本法で変わること

これまでは児童福祉法、母子保健法、児童虐待防止法など個別の法律で対応がされてきた施策間の連携が促進されることから、子どもの性と健康の問題や予期せぬ妊娠、妊産婦等への保険施策強化、乳幼児期における保険施策など切れ目のない支援を提供することが期待できるようになります。

政府は、成育過程にある者等の状況及び成育医療等の提供に関する施策の実施状況等について毎年1回公表しなければならないとされています。そのため、都道府県においても国と連携し地域の実態に応じた施策の策定、実施が求められます。

成育基本法を踏まえた健やか親子21及び関連施策について|厚生労働省|2021

 

まとめ

健やか親子21と成長基本法は、こども及びその保護者や妊産婦が自らの健康に関心を持ち、正しい知識を身に付け、学校や企業など地域社会全体で子どもの成長を見守るとともに、子育て世代の親を社会から孤立させないよう支えることができるよう目指しています。

都道府県においては地域間の母子保健サービスの格差なく継続的で、より広域的、専門的な視点での市町村支援が求められます。本記事を参考に、地域の母子保健施策の充実を図るよう取り組んでいただければ幸いです。