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多様性と子供の権利を尊重するスウェーデンの不登校対策

作成者: 米久熊代|2024/04/15 0:42:32

issue(イシューズ)の米久です。

令和4年、日本の小・中学校における不登校児童生徒は約30万人に上り過去最多となりました。不登校・いじめ対策に取り組んでいますが、10年連続で不登校が増加した日本。

本記事では、インクルーシブ教育の基盤をつくるなど福祉社会のスウェーデンの不登校対策についてまとめました。海外の事例をもとに、スウェーデンの不登校に対する考え方や、当事者主体の不登校対策、日本の学校環境の違いについて解説します。

 

 

スウェーデンにおける福祉と不登校に対する考え方

スウェーデンは福祉社会の先進国で、子供ファーストの考え方が浸透している国です。子供でも一人の人間として権利があること「子供の権利条約」成立のため力を注いだ国の一つとなります。また、インクルーシブ教育のベースであるノーマライゼーション理念(障害のある人も障害のない人も労働や教育など同じ社会で暮らせるようにすること)の発祥地でもあります。高齢者や障害者など「弱い立場の人」が排除されることなく、健常者と同じように生活できる社会こそが正常であるとし、どんな個性や違いも受け止め全員同じように生活、学べるようするべきという価値観を各国へ広めた歴史があります。

そんなスウェーデンでは欠席の多い児童生徒に対しての支援に取り組んでいます。不登校の児童生徒は、勉強の遅れなどでカリキュラムの目標を達成するのに苦労する等の原因から、社会的排除のリスクや、薬物乱用、犯罪への加担、心身の不健康などに陥るリスクが高いとし、政府や学校、社会福祉サービスが協力して改善に向けて動いています。スウェーデン政府は、生徒が教育目標を達成するための条件を強化し、穏やかで安全な学校の環境をつくり、児童生徒の就学率を高めるために、学校ソーシャルチームの人件費に対する政府補助金を学校に導入する予定です。その額は、2023年に7,500万スウェーデンクローナ(1SEK=11円)、2024年および2025年には2億5000万クローナになります。

◉スウェーデン政府公式HP

 

スウェーデンにおける不登校の実態

スウェーデンの学校教育は、義務教育の基礎学校9年、高校3年、大学3年(または4年)となっています。2015年11月、1カ月間正当な理由なしに基礎学校(いわゆる日本の小・中学校)を休んだ児童生徒は、約1,700人(1,000人あたり1.7人の不登校児数)、その内200人は1年以上の長期不登校となっていました。長期不登校ではないが断続的な欠席を繰り返している児童生徒は、2007年は1,000人あたり5.1人、2009年は12.1人、2015年は18.5人と増加傾向にあります。また、日本の中学校に相当する基礎学校7~9年制は、長期不登校1,000人あたり43.4人に上ります。

※正当な理由なしに少なくとも3週間学校を休むことを不登校と表現しています。

◉「長崎大学|スウェーデンにおける子ども・若者の「不登校・ひきこもり」問題と当事者中心の支援」より(URL:file:///C:/Users/user/Downloads/kyoikukagaku85_95.pdf)

 

スウェーデンにおける若者の不登校・ひきこもり対策の事例

ここまでスウェーデンの福祉と不登校に対する考え方と実態について解説してきました。次に、スウェーデンにおける不登校・ひきこもり対策について自治体と民間企業の取り組みをご紹介します。

自治体による子供の個性を尊重した支援プロジェクト

ストックホルム市協議会は、不登校・ひきこもりの子供・若者に対して支援プロジェクトを2つ実施しています。

1つ目は、仕事や学びの場にもつながっていない16歳~29歳の子供・若者を対象にした支援で、就労や教育の機会に再びつなげることが目的となります。このプロジェクトの主な対象は、アニメやゲーム、インターネット等に没頭し自宅にひきこもっている若者です。このプロジェクトの特徴は、対象となる子供・若者からゲームやインターネット等を取り上げて更生させることではなく、自分の好きな物を特技として活かし、就労へつなげるよう支援していることです。対象者が就きたい仕事には、ゲームソフト開発やユーチューバー等を好む傾向にあり、当事者の意見を尊重し受け止めた上で、今後の就労について一緒に考えることを大切にしています。このプロジェクトに参加した不登校・ひきこもりの子供・若者の80%が平均5カ月で回復しています。

2つ目の支援は、精神福祉的側面から支援する家庭訪問です。プロジェクトスタッフは、チームマネージャー、進路アドバイザー、心理士、精神科医、ジョブコーチのほか、過去に不登校・ひきこもりだった当事者も含め計6名で構成されています。対象者の話を否定せず熱心に聞くことは最も肝心で、元不登校・ひきこもりのスタッフは対象者に最初のアプローチをする重要な役割を担っています。不登校・ひきこもりになった理由は一人一人違い、様々な原因が重なり複雑で深刻な状態です。まず外の世界へ一歩踏み出せるように、当事者の興味・関心について把握し、それを活かしながらどうするのか当事者と一緒に考え支援を行います。

 

民間企業による不登校・ひきこもり支援

不登校・ひきこもり支援をしている民間企業の一つであるマゲルンゲン社は、すべて自治体から依頼を受けて支援を実施しています。事業内容は「治療センター」「治療・教育の統合プログラム」「サポート住宅事業」「外来プログラムおよび家族治療」の4つのカテゴリーに分かれています。

「治療センター」では、13歳~20歳の子供・若者に対して24時間体制の支援を提供しています。集中力に問題がある、いじめ、虐待等の様々な困難を抱えている子供・若者を受け入れています。睡眠や食事などの生活支援だけでなく、各治療センターには特別学校が併設されているため、治療を受けながら学校での教育を受けることができ、近隣の公立学校へ通うことも可能です。

「治療・教育の統合プログラム」は、不登校や学校不適応、抑うつなどの困難を抱えた12~17歳の子供が対象であり、一人一人に応じた教育的な治療やスキルトレーニングを行います。スウェーデン国内の基礎学校12校、高校5校に設置されています。

「サポート住宅事業」は、若者に住まいを提供し、自立生活の支援を行います。

「外来プログラムおよび家族治療」では、特に当事者の親を対象に、子供への関わり方やしつけの限度等の問題を解決できるような支援と、子供が前向きな選択ができるような環境整備等を実施します。また家族治療では、本来の家族から離れ、特別な訓練を受けた別の家族と共に生活しながら治療をするプログラムもあり、いずれも治療には9カ月~12カ月必要となります。

◉「長崎大学|スウェーデンにおける子ども・若者の「不登校・ひきこもり」問題と当事者中心の支援」より(URL:file:///C:/Users/user/Downloads/kyoikukagaku85_95.pdf)

 

スウェーデンと日本の学校の環境の違い

昨今、日本でも多様性を認める教育が浸透してきていますが、スウェーデンでは世界的に見ても早い段階でLGBT等の様々な個性を受け入れた教育の先進国です。スウェーデンの学校が子供達にどのように接しているのか一部を紹介します。※スウェーデンのすべての学校があてはまる訳ではありません。

■LGBTの子供たちへの配慮

スウェーデンでは、就学前から日常で性のあり方について学ぶことを義務付けているため、ジェンダー平等であり多様であるという価値観が浸透しています。学校では、性別関係なく誰もが利用できるトイレが設置されているなどLGBTの子供に対し配慮された環境があります。

厚生労働省によると、日本におけるセクシュアルマイノリティの子供達は、クラスに1人~2人居るという統計を明らかにしています。国内外の調査で、LGBTの子供は差別やいじめの被害に遭う割合が非常に高く、不登校・ひきこもりになった経験が多い傾向にあるという指摘があります。日本の学校ではLGBTについての教育の必要性があると認識している一方、実際に授業で取り扱ったという割合は特に小学校では低く、子供達がLGBTに対する知識が十分であるとは言い難い現状です。

 

■食について

日本でも一部で取り組んでいる学校もありますが、海外では朝の会やスナックタイム(10時頃/時間・名称は学校によって異なるが小腹を満たす時間)にパンやミルク等を提供・または持参する学校が多く、スウェーデンも例外ではありません。果物などが朝食として子供たちに配られるため、自宅でごはんを食べられない子供でも学校で栄養補給ができます。また、給食はビュッフェ形式で子供たちが好きな物・好きな量を選択して食べることができます。

朝食を食べることは、生活リズム、こころの健康、学力等と関係していることが研究で報告されており、朝食の欠食は貧困や不登校と多面的に結びついています。また、日本では給食が原因で不登校になってしまったケースもあり、「無理やり食べないといけないことが苦痛」という声も少なくありません。

 

■教育制度について

義務教育の基礎学校では、鉛筆や消しゴムなどの筆記用具、ノートやハサミなど学習に必要なすべての物は給食費も含め無料であると法律で定められいます。この法律は子供の権利条約の「全ての子供達に同じ権利がある、差別の禁止(2条)」「社会保障を受ける権利(26条)」の考えに準じています。

また、授業中に集中が切れた子供に対し「席に座って集中しなさい」と言うのではなく、物を触っていると集中できる子に対しては、好きなボールなどを持たせながら授業に参加させるなど、子供の特性に合わせて力を発揮できるような環境づくりをしています。

 

スウェーデンの当事者主体の支援を参考に

本記事では、スウェーデンの不登校に対する考え方や、不登校の実態と対策について、スウェーデンと日本の学校環境の違いについて解説してきました。スウェーデンの当事者主体の支援をヒントに、不登校対策の参考にしていただけますと幸いです。