issues(イシューズ)の米久です。
昨今、生活や価値観を踏まえながらワークライフバランスを考えて労働する「多様な働き方」を選択する人が増えています。特に女性は、結婚・出産・育児などで仕事を制限しなければならないタイミングがあり、最近では「子持ち様」批判がSNSで度々上がるなど、滞りなく就労するためには周りの理解と様々な支援が必要となります。本記事では、働く女性の活躍の現状や女性向けの起業支援に取り組んでいる自治体の事例、女性が企業をする上で課題となっている点についてご紹介します。ぜひ最後までお読みいただき、先進的な事例をもとに地域の女性起業支援や、若年女性の転出増加、出生率低下の改善の糸口となれば幸いです。
働く女性の数はここ10年間で大幅に増加しています。女性の就業率は、結婚・出産・育児のタイミングにあたる年齢に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するという、いわゆるM字カーブである一方、正規雇用比率はL字カーブとなっており、女性の正規雇用は20代後半をピークに右肩下がりのまま上昇しない状態です。育児や家事の大部分を女性が負担しており、家庭と仕事の両立が難しいことが背景にあります。
「労働力調査」(令和4年7~9月期平均、総務省)によると、非労働力人口のうちの就業希望者数は、35~44、45~54歳の女性が最多、次いで25~34歳の女性が多くなっており、就業を希望しながらもそこに結びついていない女性が数多く、多様な働き方を選択できる支援を必要としている女性が存在するであろう現状が浮かび上がっています。
また、内閣府男女共同参画局による「女性活躍と経済成長の好循環実現に向けた検討会」では、起業家における女性の割合は平成29年時点で27.7%にとどまり、令和7年までに30%以上とする第5次男女共同参画基本計画の成果目標に達していないことが分かりました。令和2年から令和3年にかけて IPO(新規株式公開)したスタートアップのうち、女性創業のスタートアップは全体の3%のみで、調達額は男性創業の
スタートアップと比べて約 44%少ない結果となった一方、調達額1円当たりの IPO(新規株式公開)時の平均時価総額は男性創業より約 32%、調達額1円当たりの売上高は男性創業より 20%高いなど、女性による起業を支援することは経済の発展に資する可能性を有しているとしています。
自治体における女性起業支援事業の先進的な事例として、北海道旭川市、福島県福島市、埼玉県草加市、滋賀県甲賀市の計4つをご紹介します。
北海道旭川市では、女性が都市部等への転出をせずとも働き方を選択でき、ライフステージによる生活環境の変化の対応と、経済的自立が期待できる分野として、女性の起業家やデジタル人材を支援する取組を実施しています。
起業家育成セミナーでは、 育児・介護中でも稼げるフリーランスとしてWebデザイナーなど起業に関するノウハウを学ぶ講座や先輩起業家との交流会、個別相談や窓口を紹介して起業支援を行っています。また、女性起業家が陥りやすい孤独や孤立をしないようネットワークの基盤づくりとして、自由に利用・交流できるテレワークスペースの無料開放と、支援員による勉強会の定期開催を行っています。
福島県福島市では、起業にチャレンジしてみたい女性を応援するプロジェクト「ふくしま起業女子パッケージ」をスタートしました。起業した先輩たちを「起業姉さん」、起業にチャレンジしたい起業者を「妹」と「姉妹」のような関係にたとえ、先輩起業者が姉のような身近なロールモデル、メンター的存在となり、妹の起業実現を応援します。
基礎知識を学ぶ講座や、「起業姉妹カフェ」で先輩女性起業家との交流、「プチインターシップ」や「お試しワンデー起業」を通して先輩女性起業家の職場を体験する機会を提供しています。事業終了後も「姉妹のネットワーク支援」等を活用し相談先へつなぐなど、関係団体との連携に努めることで女性が起業実現・事業継続に向けた切れ目のない支援を実施しています。
草加市では、フルタイム労働を前提としない、子育て等と並行可能な創業を支援するため、草加市女性創業スタートアップ事業「わたしたちの月3万円ビジネスin草加」略して「3ビズ」を開催しています。
3ビズとは、自分の得意なことや趣味など、好きなことを活かして地域に貢献しながら月に3万円を稼ぐプログラムです。このようなスモールビジネスは、子育て世代の新しい働き方として、今大きく注目されています。草加市だけでなく、埼玉県のベッドタウンでは女性による3ビズが広まっています。最終的に地域で開催するマーケットに店をかまえて月3万円ビジネスデビューすることを目標に、約半年間をかけて全6回の講座を提供します。
女性は結婚・出産・育児などで社会から孤立している間に、自分の価値を見失ってしまい、店やビジネスをすることに不安を持っている女性でも、3ビズは自信をつけることができる仕組みとなっています。
●草加市女性創業スタートアップ事業「わたしたちの月3万円ビジネスin草加」
滋賀県甲賀市では、女性起業家の増加と女性が活躍できる環境整備として、相談会や大型商業施設などの定期的に出店できる場所を提供し、女性が活躍できるように託児が利用しやすい環境を整備しています。
「女性のためのオンライン起業相談」では、市内で起業したい又は起業している女性を対象に、女性相談員によるオンライン起業相談を実施。相談者の不安解消・問題解決や起業へのモチベーション向上、起業女性の事業継続による地域活性化を図ることを目的としています。
オンライン起業相談を利用した人を対象に、起業女性がセミナーを通して学び、交流の場として託児つきの「COMACHI会」を開催しています。「Instagram活用術」「ふるさと納税に出品」など、デジタルを活用した効果的な販路開拓や集客方法をテーマに専門の講師が勉強会を実施することで、女性のデジタル人材の育成を図ります。また、COMACHI会で学んだスキルの実践の場として、チャレンジショップ「KOKA-COMACHIマルシェ」の企画・運営・開催をしています。プログラムを通して、経営意識の向上、課題の抽出を行いブラッシュアップにつなげます。
「甲賀地域クラウド交流会」では、市内の企業機関と連携し、地域でのビジネスマッチングの機会を提供するとともに、起業家の事業プランに対しその場で投票、起業資金を調達する「交流会型クラウドファンディング」を開催しています。
昨今、子育てをする親に対する風当たりが非常に強くなっています。SNS上では、子供の看病のため仕事を休まれることは迷惑、通勤電車に子連れでの乗車や優先席やスペース利用は非常識など、こうした「子持ち様」批判に歯止めがかからない状況と復帰後の賃金格差など、育児をしながら仕事をするハードルは上がっています。
内閣府男女共同参画局が発表した「女性起業家を取り巻く現状について」によると、「起業準備者が直面している課題」と「起業家が起業時に直面した課題」「起業家が起業を断念しそうになった際に直面した課題」は同様に、「家庭との両立」と回答する割合が高いことが分かりました。
出産・子育てをする女性起業家が直面する課題に「育児休業制度がない」「保育園問題」があります。1歳又は1歳2カ月未満の子供を養育するため、雇用保険から支給される育児休業給付金は、雇用保険の加入資格がない女性経営者は対象外となります。労基法で定められた産後休暇期間は産後8週間ですが、育休がないためすぐに働かなければなりません。そのため、産後1~2カ月で復帰する女性経営者が多いことが浮き彫りとなり母体保護に反するという声もあります。
保育園問題では、生後間もない赤ちゃんの預け先が見つからないことや、なんとか見つかった保育園は認可外で費用負担が大きいこと、また、第二子出産の場合は家庭で保育が可能とみなされるため、産後数ヶ月で下の子の保育園が見つからなければ上の子は保育園を退園せざるを得ない自治体もあるなど、子育てをしている女性起業家にとって保育園問題は高い壁となっています。
政府は、「長期的な経済の停滞と人口減少が続く日本の社会・経済が再び活力を取り戻し持続的な発展を遂げる上で大きな鍵となるのは、今も根強く残るジェンダー格差を解消し、働く女性が持てる力を十分に発揮し活躍できる環境をいかに速やかに実現できるかである。」としています。働く女性の活躍を推進、女性起業家を支援する動きが高まる一方で、本当の困りごとは改善されていない現状があります。本記事でご紹介した、自治体の先進的な事例や女性起業家の課題などを参考に、地域で活躍する女性起業家を支えるヒントとなれば幸いです。