小学校で指導の一貫として、体操服の下の肌着着用が禁止されている――2021年3月、こんな話題が全国的に注目されました。きっかけは、川崎市議会での山田瑛理さんの質問。翌日の神奈川新聞に掲載されると、SNSで一気に話題に。「スッキリ」、「めざましテレビ」などのテレビや、様々なメディアでも大きく取り上げられ、全国で問題意識が共有されました。
山田さんがこの課題に着目したきっかけや課題解決まで至った経緯についてお話を伺いました。
山田瑛理さん(41)プロフィール
川崎市議会議員(自民党) 2期目
1982年生まれ
選挙区:川崎区
●X
ー今日はよろしくお願いします。まずは、自己紹介をお願いします。
大学を卒業してから、12年半程民間の会社で働いていて、政治には縁遠かったです。生まれも育ちも川崎市川崎区なのですが、中高大は東京の学校、仕事も東京。地元から意識が離れていた時期もありました。
結婚して、夫婦ともにフルタイムで子育てもしながら、バタバタと忙しく過ごしていたのですが、2015年2月、川崎市で中学生の男の子が殺されてしまう事件がありました。蓋を開けてみたら、犯人も子どもでした。地元に課題があることは認識はしていたけれど、この事件をきっかけに、地元のことを考えていなかったことをすごく反省しました。
当時私は、2人目の子どもの育休中だったこともあり、地域に住む大人として、ひとりの親としても、絶対にこんな事件を二度と起こしてはいけないなという思いが生まれました。
子どもたちの環境整備のために何かやりたいな、何ができるかなと、NPOを設立するのか、起業をするのかなどと方法を考えていました。
ーその中で、政治家を選んだ理由は何だったのでしょうか?
事件が起きたすぐ後に、川崎市議選があったんですね。街中で政策を訴える候補者を見て、「そうか。議員になって川崎の街や子どもたちに関わる方法もあるな」と思って。その次の2019年の川崎市議選に立候補して、当選しました。
ーそうなのですね。今2期目ですが、どんな政策に力を入れていますか?
事件がきっかけで議員になったので、まずは子どもたちの環境整備、教育、子育て支援などです。
あとは、経済も重要だと思っています。川崎市は、ふるさと納税で毎年120億円ほど税収が出ていってしまっているんですよね。なので、稼ぐ川崎の街のためにもスポーツ振興や観光施策などの経済活性化にも取り組んでいます。それと、川崎市は若者文化も大切にしているので、バスケットボールやスケートボードができる環境の整備も取り組んでいるところです。
ー2021年に山田さんの議会質問によって、小学校での体操服の下の肌着着用禁止の問題が全国に広がりました。最初にこの課題に気づいたきっかけは何だったのでしょうか?
お母さんたちからの声ですね。「ちょっと聞いてよー。うちの子がこんなことを言ってて」というのを日常の生活のなかで聞いて。すごく驚いて、あり得ない指導だなと感じました。
同時に、「子どもたちはどう思っているのかな?」ということもすごく気になりました。なので周りの子どもたちにも聞いてみたんです。そうしたら「気持ち悪い」「すごく嫌だ」と言うので、これはやっぱり正していかなければいけない課題だなと思いました。
ー課題意識を持ってから、まずは何から着手したのですか?
これは、私の知りうる数キロ圏内の課題なのか、それとも市内全体の課題なのか。規模間によって課題の深さが変わってきますよね。
そこで、今はSNSの時代なので、X(当時のTwitter)でアンケートを取ったら、すごく反響がありました。川崎区以外の市内全域からも「うちもそうなんです」「子どもがすごく嫌がっていて困っています」という声を拾うことができました。
さらに、東京や栃木といった近隣県からの回答もあって。これは今の教育現場で起きている課題なのだな、と気づきました。
ーSNSを活用するのが、若手議員ならではの手法ですね。
現場へ足を運ぶことももちろん大切ですけど、それだけだとやっぱり私が知りうる範囲だけの話になってしまうんですよね。でもインターネットを使うと、川崎市全域だけでなく、他県からも意見を聞くことができます。本当にSNSはすごいなぁと思いますね。
ー実際に課題を市全体で共有するまでに、大変だった点はありますか?
こういう要望を聞いた時は、いきなり議場で取り上げるのではなくて、まずは担当課に行って話をします。すると「これはよくないですね」と理解してくれるのですが、「どこの学校なのか教えてください」というやりとりになってしまって。
SNSのアンケートで小さな領域だけの課題ではないとすでに分かっていたので、「調査をしてほしい」とお願いをしたのですが、少し進みが遅かったです。そこで、「議場で取り上げるので、対応してほしい」とお伝えしました。
議員が議場で発言をすることは、すごく責任が伴います。エビデンスも必要です。アンケートも取りましたけれど、本当に広範囲での課題なのかという点にはとても気を付けました。
ーその質問が新聞に掲載され、全国的に一気に注目されましたね。
Xでの広がりがすごくて。本当にSNSの時代だなと感じました。
いろんなメディアや国会でも取り上げていただき、より一層全国の課題にもなりました。最終的に、スポーツ庁が全国の教育委員会に、肌着着用禁止の見直しの通達を出すまでに至りました。
ーSNSの活用以外に工夫されたことはありますか?
工夫というと少し違うかもしれませんが、ひとつ気をつけていることがありました。
これがぐわーっと一気に話題になった時、私も毎日見ているようなテレビ番組や新聞などいろいろなところから取材依頼が殺到したんですよね。でも、全部お断りしました。「私から申し上げることはブログに書いてある質疑で以上なので、取材には応じません」と(笑)。
4年間の任期をいただいている以上、他にも解決しなければいけない課題がたくさんあるんです。取材を受けて目立つことを望んでいるのではなく、課題を解決することが目的です。川崎市はもう見直し検討する、と言っていましたので政策達成ということで、あえて追ってマスコミで煽る必要もないかな、と思いまして……。それよりもその後の働きやすさを優先しました。
ーそれはとても意外に感じました。この成果に対する、周りの方からの反応はいかがでしたか?
「ありがとう」とたくさんいろんな方から言っていただきましたね。親からだけでなく、子ども達からも、街中でも。
ー最後に、今後特に力を入れて取り組まれていきたい政策について教えてください。
たくさんあるので難しいですね...(笑)。
常に言い続けているんですけど、子どもたちが夢や希望を語れる川崎にしたいと思っています。川崎市は人口155万人で、この少子化の時代に人口も増えて、小学校の新設もされるようなめずらしい都市です。
でもその中で、まだまだ教育機会の格差があることを感じています。とにかく、この教育機会の格差をなくしていきたいですね。