issues(イシューズ)の米久です。
昨今、子どもが長く過ごす場での性被害が後を絶たず問題となっています。そこで政府は子どもを性被害から守るための制度「日本版DBS」の導入に向けて検討を進めえています。本記事では、日本版DBSへの注目が高まった背景や導入された場合どのように変化するのか、日本版DBSの対象範囲や課題など詳しくまとめました。是非最後までお読みいただき、日本版DBSの理解を深め、子どもの性被害対策の参考としてご活用ください。
日本版DBSとは、子どもを性被害から守るため、教育・保護施設等や子どもが活動する場において就労する際に、採用等をする者が公的機関に照会することにより、性犯罪歴等がないことの証明を求める制度のことです。日本版DBSを導入することで、子どもの性被害を未然に防止することが可能になります。既にイギリスで採用されており、先行事例を参考に日本でも制度を設立するため政府内で検討を加速させています。
子どもに対する性犯罪・性暴力は、被害に遭った子どもの心身に一生涯を通して苦しみを与えてしまうことになるにもかかわらず、日常的に子どもと接する職種や役割に就く者からの性被害が相次いでいます。
2020年にベビーシッターの男が勤め先の児童養護施設やベビーシッターとして派遣された住宅などで、男児20人に対し強制性交や強制わいせつ等の罪を犯した事件は、過去に例を見ない子どもに対する極めて悪質な性犯罪として社会に衝撃を与えました。長期間にわたり何度も子どもへの性犯罪・性暴力を繰り返すことが可能となった原因は、子どもの性的知識の未熟さや立場の弱さ、加害者の被害者に対する強い影響力など自らの立場を悪用することで、第三者が被害に気付きにくい環境が整ってしまうためと考えられます。加害者1人で多くの子どもたちの希望に満ちた未来を奪ってしまう行為を未然に防ぐための仕組み作りが必要になりました。現在、「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」を開催しながら、日本版DBS導入を目指して検討を進めています。
◉こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議報告書
日本版DBSを導入することが義務付けられているのは、学校や保育所などの公的な機関だけで、塾や予備校などの民間事業者等は任意とします。学校などと同じ対策を行うなど一定の条件を満たした事業者は対象となり、国が認定し公表します。
■直接義務付けの対象事業者
学校、認定こども園、保育所、児童養護施設、障害児入居施設等の児童福祉施設、等
■認定制度の対象事業者
認可外保育施設、児童福祉上の事業の届出事業者、学習塾、予備校、スイミングクラブ、芸能等を身に付けさせる養成所、放課後児童クラブ(学童)などの民間事業者、等
※派遣や業務委託、ボランティアスタッフも含む
憲法第22条「職業選択の自由」「営業選択の自由」を保証することが定められており、日本版DBSはこれに反すると懸念されています。性犯罪の前科の有無で対象者が就く仕事を法的に又は事実上制限されることは憲法に違反することにもなります。
また、加害者の前科等は高度のプライバシーに係る情報のため万が一漏洩した場合、加害者本人の社会生活に重大な影響を及ぼすだけでなく、被害者のプライバシーまでも知られ、二次被害に繋がる恐れがあることから、民間事業者等の仕事に就く者全てを対象に確認は義務付けられていません。
痴漢や盗撮などの条例に違反した者も確認の対象となります。性犯罪の前科を政府に確認できる期間は禁錮刑以上は刑の終了後20年、罰金刑は10年です。性犯罪歴のある者に加え、子供の聞き取りなどで「性暴力を行う恐れがある」と判断された場合、配置転換等の措置を行います。既に雇用されている者も対象となります。
日本版DBSを義務付ける対象事業者の拡大、性犯罪歴等の範囲を拡大するべきだという指摘や、日本版DBSの導入で加害者の子どもに対する性的欲求を消すことはできないため、子どもと関わる職業以外の環境で再犯を繰り返す恐れがあることが懸念されています。社会から排除するのではなく、新たな被害者を生まないためにも加害者への治療や回復プログラム、子どもと関わることのない仕事あっせんなどの適切な支援を行えるような環境整備を進める必要があります。また、犯罪歴を照会できない初犯への対策はどうするのかなど、課題や問題点が多数あります。
日本版DBSを導入することで、子どもたちに対する性犯罪・性暴力を未然に防ぐことが期待される一方で、保護者などからは子どもと関わる仕事に就く全ての人を対象にして欲しいと対象範囲拡大のため署名活動が行われました。「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」の報告書(令和5年9月12日)でこども家庭庁は、制度の導入後、認定制の普及状況などの実施状況を確認し、必要な拡大や強化等を更に検討、より実効性の高い仕組み実現のため取り組むとしています。制度の運用に関する様々なガイドラインは今後策定する方針です。