issues(イシューズ)の米久です。
厚生労働省のホームレス調査結果によると、路上生活者は減少傾向にありますが、多様化する生活スタイル等が要因となり正しい実態を把握できていない可能性があるなど新たな問題点が浮上しています。本記事では、昨今の路上生活者の実態や、現状と問題点、路上生活者の保護に取り組む自治体2つの事例を詳しくまとめました。ぜひ最後までお読みいただき、地域の路上生活者の支援を検討する際の参考としていただけますと幸いです。
ホームレスとは、都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる物をいう。(ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成14年法律第105号)第2条)と定義されています。
近年は、路上とカプセルホテルなどの簡易宿泊所や、インターネットカフェなどの終夜営業施設等を行き来しながら生活をしている不安定居住者が増加傾向にあります。
厚生労働省が発表した令和5年1月に実施した調査結果によると、路上生活者が確認された地方公共団体は、全1,741市区町村のうち324市区町村、昨年調査と比較すると12市区町村(▲4.9%)減少しました。路上生活者数は、3065人(男性2,788人、女性167人、不明110人)、前年と比較すると383人(▲11.1%)減少しました。(目視による調査のため防寒具を着込んだ状態等により性別が判断できない者を不明としている。)平成15年に行われた調査では、路上生活者が25,296人という結果であり、22,231人(▲87.9%)したことが分かりました。
路上生活者が最も多かった地域は大阪府(888人)、次いで東京都(661人)、神奈川県(454人)になります。また、昨年度調査と比較すると減少数の多い順に、東京都23区(▲99人)、大阪市(82人減)、横浜市・福岡市(▲38人)となりました。
路上生活者の数は減少していますが、路上とインターネットカフェ等を行き来しながら生活している者が増加傾向にあるため、現行のホームレス調査だけでは実態を把握しきれない層が存在します。
また、昨今は、失業や倒産、収入の大幅な減少、多重責務など様々な理由で住む場所を失い、公園等で起居している路上生活者が高齢化、長期化しています。初めて路上生活をしてからの期間について、55歳から80歳以上の路上生活者は「10年以上」の割合が高いことが分かりました。
路上生活をする直前の職業は、「常勤職員・従業員(正社員)」だった割合が45.8%と最も高く、次いで「臨時・パート・アルバイト」が23.2%、「日雇」が20.7%となっています。路上生活になった理由は、「仕事が減った」が24.5%、「倒産・失業」が22.9%、「人間関係がうまくいかなくて、仕事を辞めた」が18.9%となっています。
また、路上生活者の現在の仕事状況は、全体の48.9%が仕事をしており、仕事内容は「廃品回収」が66.4%を占めています。平均収入月額は約5.8万円で、「5万円以上10万円未満」が30.7%、「3万円以上5万円未満」が27.5%だということが分かりました。
今後望んでいる生活については、「今のままでいい」(男性:39.7%、女性:35.4%)との回答が男性女性ともに4割近く、「アパートに住み、就職して自活したい」(男性:17.4%、女性:12.5%)の割合が高い結果となりました。
65歳以上の者であっても約半数が収入のある仕事をしており、一定の収入を得ながら一定の場所になじみ暮らしていけることが、路上生活を長期化・高齢化させている原因と考えられています。路上生活をする機関が長期化した場合、脱却が難しくなるという問題点があります。路上生活の初期の段階で、自立支援につなげることが必要です。
大阪市は全国に先駆けて、1999年に巡回相談事業や2000年には自立支援センター事業などの自立支援策等、大阪市の実情に応じた施策の見直し、改善をしてきました。
巡回相談は市内のホームレスだけでなく、ホームレスになることを余儀なくされる恐れのある者も対象に健康・メンタル面を含め面接、アセスメントを行うとともに、保健福祉センターと連携。就労意欲はあるが失業状態の者等は、自立センターで就労自立に繋がるよう支援を行います。自立支援センターでは、宿所、食事の提供のほか、職業相談・紹介等を行っています。障害のあるホームレスや高齢者など様々な困難を抱えるホームレスについては、自立した生活を送ることができるよう入院、社会福祉施設への入所、生活保護の適用など適切な支援に繋げています。また、自立支援センターの就労対処者は、退所後3年間を対象に、再野宿の予防や安定した生活を送ることができるようアフターケアも実施しています。
大阪府と大阪市、民間団体等で構成する「大阪ホームレス就業支援センター事業」では、自立支援センター入所者の就労自立の促進と、あいりん地域の高齢日雇労働者に就業機会の提供をしています。民間事業者から幅広く仕事を集め、多様な働き方ができるよう個々の状況に寄り添った支援を実施しています。日雇労働者等技能講習事業では、資格取得や技能向上により就労機会を確保することを目的として、国から委託を受けた民間業者が、フォークリフト運転や介護ヘルパー等の多様な技能講習も実施するなど、就業の可能性を高めるため個々が必要な支援が行えるよう環境を整備しています。
また、年末年始は役所が営業しておらず、助けを必要とする人に支援が届きにくい期間となりますが、大阪市では「越年対策事業」を実施しています。年末年始に仕事が得られず収入が減ったことにより、簡易宿泊所での生活が難しくなり、路上生活を余儀なくされる日雇労働者を対象に、年末年始の間、あいりんシェルターと生活ケアセンターにて住む場所、食事等の提供を行っています。
神奈川県では、体調不良やアルコール等の依存、多重責務、失業など様々な課題を抱えるホームレスが野宿生活からの脱却を図るため、継続的な巡回相談を実施するほか、民間団体に委託し多様なニーズに対応できる相談事業を実施しています。
無料低額宿泊所は令和5年11月1日時点で60箇所以上開設し、福祉事務所や民間団体と連携を図りながら、利用者が再びホームレスになることを防止、居宅生活への移行に向けた自立・就労支援を実施しています。また、必要な医療を受けることができない人に対し、無料または低額で診療を行う「無料低額診療」や、医療を必要とする人が速やかに医療機関を受診できるよう相談窓口を提供するなど保健及び医療の確保しています。
利用者に対し自立支援だけではなく、ホームレス問題を社会全体の問題として捉えるため様々な取り組みをしています。ホームレスに対する偏見や差別意識を解消するため、啓発冊子の発行や民間団体等と連携し、地域への理解促進を図っています。学校教育においては、児童・生徒へ正しい理解を深める教育の推進、教職員等対象の研修ではホームレスの人権をテーマとした講演など継続した取り組みを実施しています。
本記事では、路上生活者の実態や現状と問題点、路上生活者の保護に取り組む大阪市と神奈川県の事例をご紹介しました。
近年、路上生活者の問題は複合的な層の重なりで問題が起きていることが考えられ、路上生活者の個別的な状況に応じた支援だけでなく、地域全体の理解や協力が必要となります。路上生活者と共に生きる社会実現のための参考にしていただけますと幸いです。