issues(イシューズ)の米久です。
日本は、他国と比較しても少子高齢化が深刻化しており、特に地方部は今後より顕著に影響を受けると予測されています。こうした状況を打破していくために、観光による地方創生は重要です。しかし、地域の伝統や文化などの魅力を国内外に発信し、観光を地域活性化につなげたいが効果的なプロモーション方法がわからないと悩んでいる自治体も多いのではないでしょうか?本記事では、政府が観光による地域創生を推進するため、形成を支援する施策DMO(観光地域づくり法人)についてや、重点支援DMO取組事例をご紹介します。是非最後までお読みいただき、各地域の事例を参考に観光による地域活性化のヒントとなれば幸いです。
国土交通省によると、2040年には全国896の市区町村が「消滅可能性都市」に該当。うち、523市区町村は人口が1万人未満となり、消滅の可能性がさらに高いとしています。少子高齢化による人口減少や、東京都をはじめとした都市部への人口集中など、地方の存続が危ぶまれている状態です。こうした状況を打開し、地方創生の方法として注目されたのが観光です。政府は、観光による地方創生を推進するため、観光地域づくりの中心となるDMOの形成を支援する施策をスタートさせました。
DMOとは、Destination Management/Marketing Organizationの略で、観光地域づくり法人と呼ばれています。地域の多様な関係者と協同しながら、科学的アプローチを取り入れた観光地域づくりを担う司令塔となる法人のことです。地域や個人では限界のあった宣伝や課題解決など、DMOが中心となることで観光による地方創生や地域の活性化をより推進できるメリットがあります。米国や英国、フランス等の観光先進諸国では、観光地域づくりに係る先進的で特徴的な取組をDMO(またはDMOに相当するもの)が中核となり進めています。
そして、重点支援DMOとは、令和2年度に制度を創設し、インバウンドの誘客を含む観光地域振興に積極的に取り組む先駆的な観光地域づくり法人(DMO)の中から、意欲とポテンシャルがあり、地域の観光資源の磨き上げや受入環境の整備等の着地整備を最優先に取り組むDMOを選定し、重点的に支援するものです。選定された法人に対し、観光庁補助金事業の活用による多面的な支援を行うことで、世界に誇る観光地の形成を推進することを目指しています。
次に、重点支援DMOの取組事例を詳しくご紹介します。
岩手県釜石市での地域DMOの事例をご紹介します。釜石市の課題である「高齢化及び人口減少」「鉄鋼業衰退による経済の弱体」に対し、地域商社事業によって得たキャッシュフローを起点に、観光振興を持続的に向上させるモデルを構築しました。
■地域商社事業
釜石の郷土菓子である味噌おこしを砕いてジェラートに混ぜた商品や、浜千鳥大吟醸の酒粕をミルクベースのアイスにブレンドした芳醇な香りのする大人のジェラートを販売しました。このジェラートを食べることを目的と訪れる旅行客もいます。また、楽天市場にてコロナ禍で停滞していた市内の特産品を接客的に販売することで、観光資源の魅力向上と地域の稼ぐ力を引き出し活性化を図っています。
■観光業
東日本大震災の津波により被害を受けた観光船が復活しました。観光船「はまゆり」の復元のためには資金調達が課題としてありましたが、釜石市の地域DMOの取組により、新たに観光船を購入するのではなく、地元漁業関係者の空き時間を利用して漁船を運行することで復活しました。漁業者には船舶料が支払われ、観光客のニーズにも対応することに成功。運用益の10%が、岩手県釡石市臨海部周辺のにぎわい創出の拠点として「魚のまち釡石」を発信していく施設「魚河岸テラス」の運営費に充てられています。
下呂温泉観光協会は、岐阜県下呂市全体の地域DMOとして活動しています。本事例では、デジタルマーケティングに基づいたプロモーションの実施と、DMOとエコツーリズムを合わせた「E-DMO」の推進についてご紹介します。
■デジタルマーケティングに基づいたプロモーション実施
下呂温泉にあるすべての宿泊施設における宿泊データを収集・分析し、プロモーションを検討する体制をつくりました。分析結果は毎月の地域全体のマネジメント会議にて共有、プロモーション戦略を計画し、アクセス解析に基づいたWEBプロモーション等を実施します。また、施策や戦略を検討する会議体を毎月実施することで、プロモーションの改善を速やかに決定し実行に移すことが可能になりました。DMOと参画するすべての宿泊施設が、「日」単位で宿泊者の動向を把握できるため、地域のニーズや観光市場を捉える基盤構築を実現しています。
こうした的確な取組により、滞在時間延長や顧客満足度の向上、旅行消費額増加につながりました。また、コロナ禍の令和2年3月においても、全国の観光地が大幅な客数減など大打撃を受けている中、下呂市では客数3割減にとどめました。
■E-DMOの推進
下呂市では全国で初めてエコツーリズムとDMOを融合させた「E-DMO」に取り組んでいます。エコツーリズムとは、地域全体で自然環境や歴史文化など、地域固有の魅力を観光客に伝えることにより、その価値や大切さが理解され、保全につながっていくことを目指していく仕組みです。(引用:環境省)
「E-DMO」とは、地域経済の活性化が期待できるエコツーリズムと、様々なデータを収集・分析してマーケティング・マネジメント・プロモーションなど観光客を誘客するDMOが融合することで、バランスのとれた効果が発揮でき、観光による地域全体の発展を図る取り組みを指します。
下呂市のE-DMOの活動として、体験商品づくりである「宝探し事業」は、市民総参加型の観光資源の掘り起こしです。親子で参加してもらえるよう小中学校にも案内を配布するなど、地域愛を育てるねらいがあります。地域の地道な努力により、体験商品が数多くつくられたことで、コロナ禍においても体験プログラム・エコツアーの販売実績が宿泊客数と同じように推移しました。
和歌山県田辺市での、地域DMOの事例をご紹介します。和歌山市のDMOは、世界に誇れる持続可能な観光地を目指し、外国人目線を活用して情報発信や受入環境の整備を図ることで、熊野古道にインバウン ドの誘客に成功しました。
■外国人目線を活用した戦略
「外国人を呼び込むには外国人の感性が必要」と考え、設立と同時に英語圏のネイティブなスタッフを採用し、多言語による情報発信や看板整備、地域文化の紹介をするガイドブック等の作成に取り組みました。また、歩く旅や、巡礼の文化は人気があるとみて、欧米など個人の外国人観光客をターゲットに、世界に向けて情報を発信しています。2015年からは世界的スタンプラリー「共通巡礼手帳」を開始。世界遺産登録されているスペイン国「サンティアゴ巡礼道」と「熊野古道」で共同プロモーション協定を締結し、両国の道を歩くプロジェクトを行ったことで、これまで海外でほとんど認知度のなかった世界遺産「熊野古道」が欧米を中心に認知されるようになりました。
■着地型旅行業の開始
「熊野古道」が世界に認知されるようになってきたものの、旅行者を地域に誘導する仕組みがないという課題がありました。そこで、2010年に着地型旅行業をスタート。世界中からの個人旅行者に対応するため、予約・決済・キャンセルのすべてがWEBで完結できる予約サイト「熊野トラベル」を構築しました。大手旅行会社ではカバーしきれない現地の魅力を、熊野を知り尽くしたスタッフが総合的に発信し、従来の観光では味わえない体験を提供することで、インバウンドの活性化を図っています。
本記事では、重点支援DMO取組事例として、岩手県釜石市、岐阜県下呂市、和歌山県田辺市を紹介しました。
我が国は、新鮮で安心な食、四季を楽しむことができる自然や気候、日本独自の文化や歴史など観光振興に必要な条件を兼ね備えた、世界でも数少ない魅力的な国の一つです。地域とDMOが協力して観光による地方創生や地域の活性化をより推進することは、安定した地域経済と観光業界の働き方改革にもつながることでしょう。
今回ご紹介した3つの先進的な事例を参考に、各自治体の観光地域づくりのヒントとなれば幸いです。