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5分で分かる行政防災無線~東日本大震災ので事例~

□自治体での防災行政無線の整備状況は?

□東日本大震災で防災行政無線がどのように活用されたのか知りたい。

□東日本大震災から見えた、防災行政無線の課題は?

「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(令和2年12月11日閣議決定)で、令和7年度までに「防災行政無線の自治体整備率100%」と決められており、各自治体で整備が進んでいます。

そして、2011年東日本大震災での教訓から、防災行政無線のあり方についての見直しも。

この記事では
□自治体における防災行政無線の整備の状況
□東日本大震災での防災行政無線の活用
□東日本大震災から考える防災行政無線の課題
をご紹介します。

東日本大震災では、防災行政無線で津波から救われた命があります。最後までお読みいただくと、お住まいの自治体で活用できるアイデアが得られますよ。

 

「防災行政無線」は災害時の大切な通信手段

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防災行政無線の役割

防災行政無線は災害時に市町村役場から住民へ避難情報などを伝えます。

防災行政無線には主に2種類あり、

●同報系防災行政無線
屋外に設置された拡声器や、戸別受信機を通じて、自治体から防災情報を流します。

●移動系同報系防災行政無線 
車に載せた移動局や、携帯型の移動局と自治体の間で通信できます。災害現場からの情報を自治体と共有できます。

<参考サイト>

●防災行政無線とは・市町村防災行政無線のデジタル化


防災行政無線が100%整備されているのは1県のみ

令和4年度末で防災行政無線が100%配置されているのは和歌山県のみです。

90%を超えるのは、岩手県、宮城県、秋田県など1都8県。東日本の太平洋沿岸に面する自治体に多いのが特徴です。

一方未整備の自治体は69市町村。設置予定の目途が立っていない市町村もあります。

<参考サイト>

●免許関係|市町村防災無線等整備状況

●防災行政無線等の整備状況に係る調査を踏まえた令和7年度までの防災行政 無線等の整備推進について(通知)


防災行政無線のデジタル化


防災行政無線もデジタル化が進んでいます。

デジタル化のメリットの一例を挙げると、

●親局と屋外の拡声器の受話器で通話ができる(アンサーバック機能)。例えば、災害時に避難所と災害対策本部の連絡が可能に。

●データや画像の送受信ができる。

●音声が良くなる。山間部などは地形によって聞こえにくいのが課題でした。音質が改善されて、聞こえやすくなります。

デジタル化はまだ普及途中

同報系でデジタル化が90%を超えているのは千葉・東京・神奈川・和歌山・鳥取。

移動系では静岡85.7%、宮城県71.4%となってます。

全ての自治体で対応できているわけではありません。

<参考サイト>

●免許関係|市町村防災無線等整備状況

防災行政無線は生活にも身近

防災行政無線は災害時だけでなく、日常でも使われています

夕方の時報ミュージックは、特に生活に溶け込んでいる方も多いことでしょう。

防災行政無線は、

◻︎水害や土砂災害などでの避難指示
◻︎河川の増水
◻︎気象情報で警報がでたとき
◻︎緊急地震速報
◻︎強い地震が起こった時
◻︎武力攻撃
◻︎光化学スモッグ注意報
◻︎行方不明者捜索
◻︎その他、緊急性を伴う行政情報

などでも使われます。

<参考サイト>

●防災行政無線とは/中津川市

東日本大震災ではどのように活用されたのか?

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大津波警報で活用された防災行政無線

東日本大震災では地震直後に大津波警報が発令。自治体は防災行政無線で避難を呼びかけました。

東日本大震災を経験した太平洋沿岸の27の自治体に調査したところ(原子力災害の関係で8市町村からの回答は得られず) 、回答のあった26自治体全てで防災行政無線で避難を呼びかけていました。
(※地震で壊れて使えなかった1自治体を除く)

一方で、17の自治体で防災行政無線を利用できなかったケースがありました。

理由は
・倒壊、破損 11自治体
・バッテリー切れ 5自治体
・燃料切れ 2自治体

防災行政無線は必ずすべてが使えるわけではありません。防災行政無線以外の広報手段も検討しておくことが必要です。


半数が大津波警報を防災行政無線で知った


大津波警報を知った住民の約半数が、防災行政無線を通して知りました。

岩手県、宮城県、福島県の被災者を対象にした大津波警報の情報入手先に関する面接調査で、太平洋沿岸の住民52%が、大津波警報を防災行政無線で知ったという結果が。

次にラジオ(17%)、消防の人(11%)となっており、防災行政無線の重要性が明らかになりました。


<参考サイト>

●4.12.2 ▶ 住民への災害情報等の伝達手段

●東日本大震災における 防災行政無線等による情報伝達について

東日本大震災から見えた5つの課題

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東日本大震災から見えた課題を5つご紹介します。


非常用電源の確保

停電を想定した非常用電源の確保が必要です。

ある自治体では、停電で2日半、非常用電源が切れて使えないことがありました。

発電機、太陽光発電、風力発電、高容量蓄電池など、電源確保の見直しが課題です。


   
防災行政無線を発信する場所

防災行政無線室は耐震性がある建物への設置がおすすめ。

耐震性のない建物は破損するリスクが高く、災害時に無線のやり取りができなくなる可能性があるからです。

また、何階に設置するかも重要です。東日本大震災では、防災行政無線室が建物の上層階にあり、職員の安全確保のため、短時間しか放送できなかったケースがありました。

反対に沿岸部の庁舎では、津波で防災無線室の高さまで、津波が押し寄せた事例も。

自治体の特性に合わせて、検討してみてくださいね。


屋外拡声器の設置場所

沿岸部の場合、津波被害の影響を受けない方法で設置する配慮が必要です。

津波被害があっても使えるように整備した仙台市の事例です。

仙台市が設置した屋外拡声子局は、東日本大震災で50基中38基が水没や倒壊。

非常用電源を地上1.5mから8mの場所へ上げて、さらに耐震性を震度6強から震度7へ引き上げ。ポールの直径も太くして、強度を高めました。


放送内容と放送エリア

東日本大震災では、津波の高さを伝えると避難しない住民もいました。そのため、防災行政無線では高さを伝えるのをやめたケースも。

津波が河川を逆流して、内陸に被害が出た自治体もありました。

防災行政無線での津波避難を、沿岸部だけでなく内陸部にも流すように見直した例もあります。


防災行政無線以外の広報手段

防災行政無線以外に戸別受信機、携帯メール、広報車の活用などを新たに見直した自治体もあります。

防災行政無線があれば大丈夫ということではありません。

災害時は何があるか分からないからこそ、複数の広報手段を整備しておくことが大切です。

<参考サイト>

●4.12.2 ▶ 住民への災害情報等の伝達手段

●東日本大震災における 防災行政無線等による情報伝達について

防災行政無線を日常に浸透させる自治体の工夫

防災行政無線を住民に知ってもらうため、自治体ではさまざまな工夫をしています。

例えば、福島県いわき市では、市の公式YouTubeで防災行政無線の役割を紹介


住民の疑問が解決されると、理解が深まり、住民の協力が得やすくなります。


また、長野県佐久市では、防災アプリ「さくステ」の中で、緊急時には防災行政無線が流れます

アプリで地元のFMラジオや、佐久市の運営するポッドキャスト局と連携。視聴中に緊急情報があれば、番組途中で防災行政無線の情報が流れる仕組みです。


東京都品川区では、防災行政無線の内容を、区のホームページ、品川情報メール、LINE、Twitter、防災行政無線確認ダイヤルなど、さまざまな媒体で配信しています。

防災行政無線が日常に溶けこむと、住民の防災に対する意識が高まることが期待できます。

<参考サイト>

●さくステ

●防災行政無線について|品川区


自然災害に強い街づくりに防災行政無線を生かす

この記事では、自治体における防災行政無線の整備の状況、東日本大震災の活用事例、東日本大震災から考える課題をご紹介しました。

宮城県名取市閖上地区では、東日本大震災で防災行政無線が機能しませんでした。津波が来ることを知らなかった住民が命を落としました。

自然災害は、人の手でコントロールできるものではありません。しかし自然災害に強いまちづくりは、人がコントロールできる部分です。

是非、お住まいの自治体での参考になさってみてください。