切れ目ない妊産婦のメンタルヘルスケアを目指して~自治体のネットワーク構築事業~
issuesの高松です!
「妊娠中・産後の女性のメンタルヘルスケアに、自治体としてできることは?」
妊娠や出産は、女性の心と身体が目まぐるしく変化する時期です。
特にメンタルヘルスの不調は女性の健康、生まれた子どもの養育に関係する面もあり、重要視されています。
この記事では妊婦や産後の女性のメンタルヘルスケアを切れ目なく行うためのネットワーク事業の事例をご紹介します。
有志主体の取り組みもありますが、自治体でも活用できる取り組みです。
妊産期はどのようなメンタルヘルスケアが必要?
妊娠前から精神疾患を持っている方のケア
妊娠前から精神疾患を持っている母親には
・精神症状を悪化させない支援
・妊娠・出産をきっかけに、母親としての役割を獲得していく支援
・家族全体で子育てに向き合えるようにする支援
などが必要です。
妊娠中・産後はうつを発症しやすい
妊娠中や出産後の女性はうつ病を発症しやすいと言われています。
特に、産後うつ病はおよそ10%の人がかかると言われていて、気分の落ち込みや楽しみの喪失、自責感や自己評価の低下などを訴え、産後3か月以内に発症することが多いです。
産後うつ病は子どもとの愛着形成への影響、自殺などにもつながりやすく、早期発見と介入が必要です。
産後うつ病について教えてください│公益財団法人 日本産婦人科医会
妊産婦のメンタルヘルスは「連携」が必要
妊産婦のメンタルケアには「精神科」の介入が必要なケースがあります。
もし母親にうつ症状が見られても、地域内でネットワークが確立されていないと、
・うつ症状があっても適切な医療に結びつけられない
・母親のうつ症状が続くと子どもの愛着、発育に影響する
といったデメリットにつながります。
また精神科が身近でない方にとっては、「精神科」と聞くだけで心理的ハードルは高くなり、一歩が踏み出せないというケースも。
さらに「精神科受診してみた方がいい」と勧められても、精神科の初診予約は取りにくいところが多いです。早く受診した方がいい状況なのに、1ヶ月先…というのは現実的ではありません。
そこで、子ども家庭庁では、妊産婦のメンタルヘルスに関するネットワーク構築事業を重点課題にあげています。
自治体の事例をご紹介します。
【宮城県】関係機関とのネットワーク会議の開催
宮城県では妊産婦が抱えるメンタルヘルスの問題の早期発見と、切れ目ない支援を行うため、年に1回、関係機関と情報の共有や意見交換を行っています。
協議内容は、
・医療機関と行政の情報共有
・関係機関との連携のあり方
・ハイリスク妊産婦や育児困難者への対応
など。
参加者は、医師会、周産期医療センター、産婦人科医会、精神科の病院や東北大学、看護協会、助産師会、宮城県、仙台市などです。
妊産婦のメンタルヘルスに関するネットワーク構築事業に係る事例紹介│こども家庭庁成育局母子保健課 2024
【千葉県】地域の医療体制の見える化(医療関係者有志による)
2018年10月メンタル不調をもった産後女性へ、関係機関が連携して支援できるように、千葉県内の精神科および産婦人科医療機関に所属する医療関係者有志によって「ママのメンタルケアネットワークちば」を設立されました。
千葉県内で産後のメンタル不調の女性の受け入れに積極的に取り組む精神科医療ネットワークを構築。ネットワークに参加している精神科クリニック、病院の医療保健連携マップを制作しました。
医療保健連携マップを自治体の母子保健を扱う課や、地域保健の窓口、産科医療機関、助産師会、医師会などで配布しています。また自治体のホームページからも閲覧可能です。
母親を支援する職種や母親本人がそのマップをもとに、メンタル不調を相談しやすくする体制を整えました。
令和元年に作ったマップでは20の精神科が協力(診療所17、病院3)しています。
ママのメンタルケアネットワークちば連携マップ│柏市 2019
母子保健指導者養成研修│こども家庭庁 2023
【大分県】産後うつが認められた場合のフローを作成
大分県では産後のうつが認められた場合のフローを作成しています。緊急性が認められた母親に対して、速やかに精神科に繋げられるネットワークが構築されています。
最初の入口は産後2週間後、産後1ヶ月後の検診です。産後最初の検診は、産後うつをひろいやすいタイミングでもあります。
最初の検診で、母親にうつ病の有無を調べる検査用紙を記入してもらいます。そこで、精神的支援が必要な母親がいたら、県が指定した産科医に相談し、即日の緊急対応が必要か判断します。
●【緊急対応が必要】かかりつけの精神科があれば産科医師から直接コンタクトをとります。もしかかりつけを持っていなければ、すぐに診察してもらえる精神科を紹介します。
●【緊急性はないけれど、診察が必要】産科医師から母親へ精神科を紹介し、1〜2週間程度で受診してもらいます。
●【診察は不要】母親に対して、市町村が継続して経過観察を行なっていきます。
大分県の事例は、地域保健師、産科、精神科など、地域内での連携があってこそ始めて動き出すフローです。
母子保健指導者養成研修│大分県 2023f
妊産婦のメンタルヘルスに関するネットワーク構築事業に係る事例紹介│こども家庭庁 2024
母親の心身の健康が子どもの健康につながる
この記事では、千葉県の関係機関とのネットワーク会議、千葉県の有志による精神科医療ネットワーク、大分県の産後うつ病が見られた場合のフロー作成についてご紹介しました。
母親の心身の健康が、子どもの養育環境・愛着形成・健康・虐待防止につながるため、母親のメンタルヘルスケアはとても重要です。
ぜひお住まいの自治体での参考になさってみてください。