水上の悲劇を繰り返さないために──船の事故ゼロへ、自治体ができること

観光船が運休。通学の船が減便。高齢の船長が1人で危険な夜間航行を続けている――
こうした水辺のインフラ課題に、心当たりはありませんか?
人口減少と高齢化が進むなか、フェリー・渡船・観光船・ダム巡視艇といった“水上の公共交通”が、今まさに岐路に立たされています。しかも、それらは通学・通院・観光・物流・災害対応など、自治体の暮らしと経済を支える不可欠な交通手段でもあります。
しかし現実には、
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船員の高齢化と不足
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安全管理体制の限界
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河川や港湾インフラの老朽化
といった複合的な問題が、各地で減便や事故という形で表面化し始めています。
こうした背景のもとで、いま各地で導入が進むのが、*自動操船」「AI航行支援」などの海のDX(デジタルトランスフォーメーション)です。本記事では、最近の事故事例とともに、地方議会が取り組める“止めない水上交通”の具体策を紹介します。ぜひ、次の議会質問や政策提案のヒントとしてご活用ください。
1 「ヒト依存」だけでは守れない時代
船舶事故の約7割はヒューマンエラーが引き金といわれます。熟練船長の高齢化と人手不足が同時進行するなか、観光・通勤通学・物流・防災と多用途で船を必要とする自治体ほど、事故リスクと公共サービス維持を両立させる仕組みづくりが急務です。
2 過去3年の主な事故・教訓
ここで具体的に海の事故についてみてみましょう。3年で発生した船の事故の一部をまとめてみました。
年月 | 水域/船種 |
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2022 / 4 北海道知床沖 観光船 KAZUI | 死者行方不明26人。荒天でも出航を強行、安全管理体制欠如 日テレNEWS NNN |
2023 / 3 京都保津川観光舟 | 岩に衝突・転覆、船頭2人死亡、19人負傷。川下りでも操船ミス 関西テレビ放送 カンテレ |
2024 / 1 滋賀琵琶湖 プレジャーボート | 転覆で男性3人死亡。全員ライフジャケット着用も低体温で救命失敗 ニッポン放送 NEWS ONLINE |
2024 / 3 山口下関沖 ケミカルタンカー KEOYOUNG SUN | 転覆し8人死亡。荒天で錨泊中に転覆、化学物質980t積載 運輸安全委員会 |
2024 / 7 北海道苫小牧港 フェリー Silver Breeze | 夜間入港時に防波堤消波ブロックへ衝突、船体損傷(140人無事) 日テレNEWS NNN |
2024 / 7 宮城松島湾 遊覧船 |
離岸時に護岸接触、乗客5人負傷 日テレNEWS NNN |
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「職人の技」への依存
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安全運航の現状
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船員の経験・集中力に大きく依存
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いわゆる「職人的な技術」が安全の要
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限界とリスク
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船舶事故の 約7割が人的要因
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経験値や勘に頼る体制は再現性が低い
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熟練者の減少
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ベテラン船員が年々減少し、技術供給が縮小
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経験依存のリスクがさらに拡大
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必要な対策
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経験に頼らず安全を担保するシステム導入
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デジタル化・自動化による標準化と再現性の確保
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人手不足の深刻化
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船員数の推移
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総数は減少傾向
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50歳以上が過半数を占める高齢化構造
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世代交代の停滞
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若年層の流入不足で担い手確保が困難
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経験・技術の継承が途絶えつつある
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熟練船長確保の困難さ
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経験豊富な船長の採用・維持が難しい
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引退後のノウハウ喪失リスクが顕在化
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資格取得のハードル
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20トン以上の船舶では海技士免許が必須
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学習・実習コストが高く新規参入を阻害
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結果としての課題
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人的資源不足が安全・運行計画全体に波及
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労働負荷増大 → さらなる離職・事故リスク
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