命に関わる疾患を早期発見、早期治療!拡大新生児マススクリーニング検査〜国の実証実験〜
「国が行っている拡大新生児マススクリーニング検査の実証実験が知りたい」
生まれたばかりの新生児に対して、先天性の疾患を持っていないかどうか調べる新生児マススクリーニング検査。
現在20疾患が対象になっていますが、2疾患を追加する方向で国の実施実験が始まっています。
この記事では、検査項目が22疾患に拡大されようとしている背景、実証実験に参加している自治体の事例をご紹介します。
現行の新生児マススクリーニング検査とは?
新生児マススクリーニング検査(先天性代謝異常等検査)とは、新生児が命に関わる稀な疾患をもっていないかどうか調べる検査です。
異常を早期に発見することで、その後の治療・生活指導につなげ、生涯にわたって知的障害などの発生を予防する目的があります。
●対象 生後28日までの新生児
●検査場所 出産した医療機関で検査を申し込み、入院期間中に受けるケースがほとんど
●受検率 平成26年〜令和3年までのデータでは100%超
●検査方法 新生児のかかとから血液を採取
●実施主体 都道府県や政令指定都市
●検査費用 公費負担
●対象疾患 20疾患
対象疾患拡大の動き
対象疾患が拡大のため、現在実証実験が進んでいます。
背景には、技術の進歩で今までであれば治療方法がなかった疾患で、治療が可能になったことがあります。
追加が検討されている疾患は2つ。
●重症複合免疫不全症(SCID)
生まれつきの免疫の異常により、病原体から体を守ることができない病気です。感染症を繰り返し、命に関わります。
また、生後2か月から開始する生ワクチン(ロタウイルスワクチンやBCGワクチンなど)の予防接種で重篤な副作用を引き起こすことがあるため、ワクチン接種までに早期発見することが重要と言われています。
治療方法には、臍帯血移植、骨髄移植、末梢血幹細胞移植、遺伝子治療があります。
●脊髄性筋萎縮性(SMA)
運動神経や筋肉が育たず、全身の筋力が低下していく病気です。遺伝子の変異が原因で、進行性で年齢とともに症状が進んでいきます。
約半数を占める重症型では、早期に積極的な治療をしないと寝たきりになり命にも関わります。
治療薬が開発されており、2022年7月時点で国内でおよそ50人以上の治療が行われ、多くの場合は治療の効果が認められているそうです。
例えば、生後15日と早期に治療を受けた子どもでは、運動機能が正常に発達し、3歳になって元気に歩いたり遊んだりしている症例も。
脊髄性筋萎縮症の治療は早ければ早いほど効果が高いと言われています。
だから1日でも早く病気を発見・診断のために、新生児マススクリーニング検査への追加が必要なのです。
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ce28e632-7504-4f83-86e7-7e0706090e3f/49ba4893/20231122_councils_shingikai_seiiku_iryou_tWs1V94m_06.pdf
http://www.nihonsyouni.jp/baby/scid/
https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1431.html
実証実験の進め方
検査自体は医療機関と国との連携で進んでいきます。
実施主体は都道府県や政令指定都市、補助率は国1/2、都道府県、政令指定都市½です。
【医療機関側】
・新生児の保護者に新生児マススクリーニング検査について説明し、検査結果を国の調査研究に活用することに同意を得る。
・採血を行い、結果を新生児の保護者に伝える
・陽性だった場合、保護者へのカウンセリングや、新生児に治療できる体制を整えておく
【子ども家庭庁】
・必要な検査結果の共有や情報提供などで、医療機関との連携
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ce28e632-7504-4f83-86e7-7e0706090e3f/49ba4893/20231122_councils_shingikai_seiiku_iryou_tWs1V94m_06.pdf
実証実験に参加した大阪市の場合
大阪市はこの実証事業に応募し、実施主体の一つとして採択されました。
大阪市内の分娩取扱医療機関で出生した新生児は、令和6年3月1日から従来の検査対象疾患に加えて、重症複合免疫不全症と脊髄性筋萎縮症の検査が公費で受けられるようになりました。
採血料及び検体送付料については自己負担です。
対象は大阪市内で出生した新生児のうち、検査を希望される方。大阪市での里帰り出産も対象になります。
https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/page/0000371472.html
実証実験実験の前から、独自に検査していた自治体もある
子ども家庭庁が実証実験を始める以前から、新生児マススクリーニングで重症複合免疫不全症と脊髄性筋萎縮症を検査している自治体があります。
ただし、この検査は自治体が行う公費検査とは別の扱い。地域の小児科医の団体が実施主体となり、自治体の協力を得て、特定の医療機関で進められていました。
限られた自治体でしか実施できなかった理由の一つは検査体制です。
この2つの疾患の検査には、専用の検査機器が必要で、検査する専門職の確保も必要になります。
また、疾患が見つかった場合も高度な医療が必要になり、治療できる施設や医師の確保も必要になります。
以前から公費で誰でも受けられる体制が望ましい、と声があがっていました。この実証実験がきっかけとのり、自治体での検査体制、治療体制が今後ますます期待されます。
https://www.yomiuri.co.jp/medical/20230129-OYT1T50258/
独自に拡大新生児マススクリーニングを行っていた愛媛県のケース
愛媛県では、愛媛大学の医師らが中心になり、2021年から拡大新生児マススクリーニング検査を行ってきました。
対象疾患は、
・ライソゾーム病(ポンペ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ムコ多糖症1型・2型)
・脊髄性筋萎縮症
・重症複合免疫不全症
これらは、診断が遅れて症状が進んでから治療を始めても、十分な効果を得られないことがあり、早期発見が大切と言われている疾患です。
対象は希望者のみ。通常の新生児マススクリーニング検査に追加して行います。
基本は費用負担がありますが、今治市では公費で受けることできます。
https://www.city.imabari.ehime.jp/neuvola/screening/
https://www.m.ehime-u.ac.jp/screening/
拡大新生児マススクリーニング検査が、どこでも公費で受けられるように
この記事では、新生児マススクリーニング検査 検査項目の追加の背景、大阪市と愛媛県の事例をご紹介しました。
新生児の時点で早期に病気を発見できれば、調査や療育など適切なケアを受けられて、その子どもの未来が変わります。
実証実験の結果が出て、どこで生まれても公費負担で受けられるようになる日が待ち遠しいですね。