授業料有料化したら学生が増えた!?イングランドの大学教育制度から学ぶ授業料無料化と有料化の違い
issuesの高松です!
「大学の授業料を無料化した場合の、良い点と悪い点が知りたい」
イングランドでは1962年から無料だった高等教育機関の授業料を、1998年に有料化しました。
背景には授業料の負担が国の財政にのしかかったこと、また学びの恩恵を受けるのは「授業を受ける学生」で学生自身が支払うべきものという認識に変わったからです。
イングランドの事例から、高等教育機関の無料化と有料化の違いを考えます。
イギリスの教育の歴史
1962年に始まった高等教育機関の無料化
1962年から高等教育機関の無料化がはじまります。学生にとっては無料ですが、費用は国(納税者)によって支払われていました。
学生が無料で授業を受けられたのは、その当時イングランドでは「人的・知的資源への投資」が将来の投資につながると考えられていたから。国の負担は大きくても、この制度で運用ができていました。
さらに学生には親の資力調査に基づいた生活費も給付されていました。
1980年代に高等教育機関有料の動きが
1980年代には高等教育機関の数は増え、進学者も増加。授業料が国の財政を圧迫し始め、学生からの授業料徴取の可否について議論が始まります。
さらに国は、高等教育機関側にも独自で財源を確保して、自力で努力経営するように迫りました。
高等教育機関に進む学生が増えた結果、国にとって生活給付金の給付も大きな負担となりました。
1990年代には教育ローン
1990年代にはいると、国からの生活給付金が縮小。経済的に困難な学生以外はローンを組むように勧められました。
さらに授業料も有料化へと移行していきます。当時は、恵まれた家庭出身の学生にだけ授業料が発生し、貧しい家庭の学生は免除となる仕組みでした。
2000年代は各高等教育機関で授業料を設定
2000年代に入ると、授業料は家庭の所得に関係なく一律徴取へ変わっていきます。高等教育機関には学生獲得競争が生まれました。学費に見合う利益が得られるかどうか、学生が判断をするように。
授業料が一律徴取になると、貧困層は進学できないと思われるかもしれません。それぞれの大学に独自の給付金制度があって、貧困層の学生はその給付対象になります。
授業料・生活費のローン
授業料が無料であれば、学生は卒業後のローンを抱える必要がありません。過去のイングランドでは、在学中からお金を気にせず授業を受けることができました。
しかし、現在のように有料化されると入学と同時に授業料の問題に直面します。
授業料による学びの機会損失を解消するために、イングランドでは授業料の学生ローン制度が整備されているのです。
在学中は学生自身は授業料の支払いをせず、学生ローン会社が代わりに高等教育機関に授業料を支払います(※在学中に学生自身が支払いをしないと決めた場合)。
そして卒業後に職を得てからローンを返済していきます。支払いには一定の収入を得たらという条件があり、さらに債務は約30年で消滅するので、もし支払いが残っていたとしても、一定期間が経過すると支払いが完了となります。
生活費のローンも同様の仕組みです。
無料化で国の財政圧迫
イングランドで1960年代から高等教育機関の授業料無料化が実現できたのは、学校数・学生数が少なかったことも理由の1つです。
高等教育機関の設置数が増えて、学生数も増加すると国の支出が増えて、授業料有料化の議論のきっかけになりました。
結果、学びから利益を得る学生が支払うべきという考え方も支持され、イングランドは有料化に踏み切りました。
有料化したら進学率が増えた
授業料導入後の数年間と、その後の引き上げ直後の期間における進学者数の変動を検討したところ、1998年に比べて進学率は約2倍に増加し、2015年には約35%に達しました。
社会経済的格差も縮小し、最低所得層家庭出身の進学率は最速ペースで上昇しました。
改革直後の数年間は、大学進学に関する社会経済的格差が安定的に推移し、全体的なアクセスの改善が見られました。
大学側の教育の提供価値見直し
授業料を有料化したことで、払った金額に見合った授業を求めて学生たちが学校を選ぶ傾向に。
大学側は提供する教育をブラッシュアップしていきます。
授業料無料がすべて良いわけでない
この記事ではイングランドの授業料の遷移、無料化・有料化のいい面・悪い面をご紹介しました。
イングランドは高等教育の授業料を無料から有料に変えたことで、大学進学率が上昇しました。そして貧困家庭層の進学率も上昇しています。
自分でお金を出すからこそ、大学教育に価値を感じ、学びたいと意欲が湧いてくる一面もあるかもしれません。
日本でも大学無料化の意見も出ていますが、ぜひイングランドの事例を参考になさってみてください。
●イギリスの高等教育授業料・生活給付金政策と 進学拡大政策の変遷│独立行政法人 大学入試センター 2023
●大学無償化の本当のコスト:英国から学ぶ教訓│独立行政法人経済産業経済所 2018