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海外ネット選挙活動の最新事情|アメリカの事例から見る戦略や課題

issuesのにしのです。
2013年4月に公職選挙法が改正され、日本でもネット選挙活動が解禁されて10年あまり経ちました。まだまだ発展途上といえる日本のネット選挙ですが、ネット選挙先進国であるアメリカを例に、SNSなどを活用した選挙の戦い方や今後の課題を解説していきます。ぜひ最後までお読みいただき、これからの戦略設定の参考にしていただければ幸いです。

アメリカのネット選挙活動の先進性

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アメリカでは選挙運動にインターネットが積極的に活用されており、ネット選挙活動における先進性が度々語られます。2000年の大統領選挙戦でジョン・マケイン候補が資金調達活動にネットを使ったことが活動の先駆けと言われており、2004年の大統領選挙戦ではハワード・ディーン候補がメールやブログを活用してボランティアを募集。その革新的な手法が注目されました。

アメリカでは大統領選挙のたびに、ネットを活用した新しい選挙キャンペーン戦術が誕生しています。黒人大統領や女性副大統領、最年少議員の登場など、新しい局面が生まれた場面では、ネットやSNSの深い関与が見て取れます。

日本でも同様に、ネットを使用した選挙活動が、新時代の政治を築くキッカケになる可能性を秘めています。今後も情報通信技術の進化によって新たな選挙戦術が登場するはずです。技術の発展や時代の変化を十分に感じ取りながら、ネット選挙活動の動向に注視していきましょう。

記憶に残る2008年のオバマ・キャンペーン

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オバマ大統領が2008年の大統領選挙で勝利を収めた背後には、革新的なネット選挙戦略がありました。オバマ氏は従来の大企業からの巨額献金に頼るのではなく、個人からの少額ながらも幅広いネット献金を集める戦略を策定しました。

従来の選挙活動では、企業などからの大規模な寄付が必要不可欠という常識がありました。それに加え、さまざまな事務コストや管理コストを考えると、少額の個人献金はマイナスになってしまうのが実情でした。

そこでオバマ陣営が目をつけたのが、運用コストが低いネットを活用した献金です。少額からの献金を呼びかける選挙戦応援サイトを設立し、サイト内に組み込んだSNSを駆使。支持者相互の連帯の輪を広げました。

15万回以上のグループ会合を通じて若い世代に政治関与の意識を植え付け、強固な支持基盤を築き上げ、最終的には1億5000万ドルもの献金を集めました。この活動は、政治における個人の影響力拡大にも寄与し、民主主義を促進する一因にもなりました。

オバマ氏のネット選挙戦略は就任後の政策形成にも深く影響を与え、現在のアメリカ民主党にはオバマ氏を凌ぐほどSNS戦略に長けた政治家が二人います。

以下ではその二人、オカシオ=コルテス議員とカマラ・ハリス議員を参考に、SNS戦略が重要な位置を占めていることを見ていきましょう。

若い世代から共感を集めるオカシオ=コルテス議員

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「AOC」のハンドルネームで親しまれるオカシオ=コルテス議員は、2018年に米国史上最年少(当時28歳)で下院中間選挙に当選し、ミレニアル世代を代表する政治家として注目を集めました。彼女はヒスパニック系の労働者階級の出身であり、民主的社会主義者として知られています。

彼女が際立った支持を得た要因は、政治的な後ろ盾を持っていなかった経歴にあります。一般人に近い目線でアメリカ政治のリアルな現場をフォロワーに発信し、バズやミームを駆使して知名度を高めました。特にミレニアル世代やZ世代の若年層に対して、政治を身近に感じさせる発信が共感を呼び起こしています。

彼女のSNSフォロワー数は現在1500万人以上であり、トランプ前大統領からの差別的な発言や共和党の議員による暴言にも、Twitterやスピーチで毅然と反論しました。これらの発言や動画はインターネットミームとなり、多くの支持者を集める要因となりました。

オカシオ=コルテス議員は若い世代に対して、従来の政治へのアプローチを変え、リーダーシップを示しています。彼女の姿勢は、「政治を身近に感じさせ、共感を呼び起こす」効果を生んでおり、今後もその影響力が拡大することが期待されています。

多様性とスピーチを武器に支持を集めるカマラ・ハリス議員

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カマラ・ハリス議員はジャマイカ人で経済研究者の父親と、インド系移民で著名な乳がん研究者の母親の元に生まれました。彼女は自らの多彩なルーツや家族について惜しみなくSNSへ発信し、多くの人々から共感を得ています。その姿勢は彼女の個性とつながり、支持を集める大きな要因になりました。

検察官としてのキャリアで鍛え抜かれたハリス議員は、鋭い質問や優れたスピーチにより強い拡散力を発揮し、大きな反響を呼び起こしています。2020年、ジョー・バイデン氏がアメリカ合衆国第46代大統領に就任すると同時に、ハリス議員は女性・黒人・アジア系として初のアメリカ副大統領に指名されました。副大統領への選出は、バイデン氏の事実上の後継者として位置づけされていることを示しています。

ハリス議員が投稿した大統領選の勝利宣言に際して、Instagramには世界的人気歌手のテイラー・スウィフトやハリウッド女優のナタリー・ポートマンから祝福のコメントが寄せられています。ハリス議員は、自身の若さや多様性を生かした戦略と、ネット選挙活動の親和性が高いことを見抜き、あらゆる立場の人から共感を集めることに成功しました。

日本とアメリカにおけるネット選挙活動の違い

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日本でのネット選挙運動では、有権者による電子メール送信は禁止されており、未成年者の選挙運動も従来どおり制約されています。一方アメリカでは18歳未満でもボランティアとして選挙運動に参加可能。支援を広げるツールとしてSNSが効果的に使われており、日本に比べて柔軟性が際立ちます。

また、有権者が各候補者の選挙CMを自分のブログに掲載し、献金へのリンクを張ることができます。表現の自由を重視し、個人のブログや電子メールで選挙に関する意見を表明することも容認されています。全てにおいて年齢に規制がなく、投票権を持たない若者でも積極的に政治に関与し、投票の呼びかけを行うことが一般的になっています。

このようにアメリカでは、未成年を含むボランティアが選挙戦の重要な役割を果たすため、政治は「自分たちの手で変えられるもの」として認知されています。若年層が政治に参加するための仕組みとして、日本とアメリカのネット選挙活動の差は依然として大きいと言えるでしょう。

アメリカの事例から見えてくるネット選挙運動の課題

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ネット選挙運動には課題も潜んでいます。まず大きな課題としてあげられるのが、外国人からの献金問題です。2012年のアメリカ大統領選挙では、オバマ大統領がネット経由の外国人献金問題に直面し、大きな危機に見舞われました。日本では献金者の国籍確認が手紙やはがきで行われますが、ネットを介した受け渡しは国籍の確認が極めて難しくなり、ネット献金の普及において克服すべき大きな課題となっています。

また、ネットの活用は選挙費用の削減に寄与すると期待されていましたが、アメリカでは逆に増加傾向にあります。ネットに関連する施策では常に新しい技術を導入する必要性があり、費用高騰に拍車をかけている実情が明らかになっています。技術革新の流れは早く、新しい戦略が次々生み出されていく分、それに応じたコスト増加は対策していくべき課題でしょう。

アメリカの先進的な活動を参考にネット選挙に取り組もう

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この記事ではアメリカの事例を参考に、ネット選挙活動の最新事情やこれからの課題について解説してきました。具体的な戦略やSNS活用のヒントとしていただき、ネットを含めた選挙活動の参考にしていただければ幸いです。

【参考資料】
https://www.sbbit.jp/article/cont1/26095
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=714
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=715