予防接種の持続可能性を支えるための自治体の対策
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予防接種は、感染症から私たちの健康を守る重要な手段です。しかし近年、定期接種の種類や臨時接種への対応が増加したことを受け、その費用が自治体の財政を圧迫しています。この記事では、予防接種の持続可能性を支えるための自治体の対策について、詳しく見ていきます。
予防接種の重要性と自治体の役割
予防接種の基本的な仕組みとその効果
予防接種は、病原体の一部や弱毒化したものを体内に入れることで、免疫を獲得する方法です。これにより、実際に感染症にかかった時に、重症化を防いだり、症状を軽くしたりする効果があります。例えば、麻しんやポリオなどの感染症は、予防接種の普及によって患者数が大幅に減少しました。
自治体が担う予防接種の実施体制
予防接種法に基づき、予防接種の実施主体は各自治体です。つまり住民に対し、市区町村が予防接種を提供する責任を負っていることになります。自治体は医療機関と連携して接種体制を整え、住民への周知や接種費用の負担などさまざまな役割を担います。
自治体が提供する予防接種の助成事例
小児インフルエンザワクチンの助成状況
全国1,747の自治体のうち、小児インフルエンザワクチンの全額助成を行っている自治体は107(6.1%)、一部助成を行っている自治体は787(45.0%)となっており、合計で半数以上の自治体が何らかの助成を行っています。特に茨城県、岩手県、秋田県、石川県、栃木県、富山県、福島県では、助成のある自治体が80%以上を占めています。
一方、助成がない、または助成の記載がない自治体は853(48.8%)となっており、自治体間で助成状況に大きな差が見られました。
おたふくかぜワクチンの助成状況
おたふくかぜワクチンに関しては、全国の1,747自治体のうち、全額助成を行っている自治体は98(5.6%)、一部助成を行っている自治体は464(26.6%)であり、こちらも助成がない、または記載がない自治体が67.8%を占めています。助成の充実度が高い都道府県としては、茨城県、宮崎県、石川県、大分県が挙げられます。
助成状況の地域差の課題
北関東地域を例にとると、小児インフルエンザワクチンの公費助成が広く行われている一方で、13歳未満の人口が全国平均を上回っているにもかかわらず、公費助成がないか、その旨が明記されていない自治体も存在します。このことから、地域ごとの健康課題や予算配分によって、予防接種に対する公費助成の状況が大きく異なることがわかります。
増加する予防接種費用と自治体の財政負担
近年、予防接種の対象疾患が増加したことに伴い、自治体の財政負担が大幅に増大しています。過去には、HPVワクチン、Hibワクチン、小児用肺炎球菌ワクチンが定期接種化された際、年間約1200億円の追加費用が発生しました。
予防接種法の改正により、自治体の負担割合が増加したことで、数百億円規模の追加負担が市町村に課せられるケースが今後も予想されます。財政状況が厳しい自治体にとって、この負担は大きな課題となっています。
予防接種の持続可能性を確保するための対策
国と自治体の協力による財政支援策
自治体の負担が増え続ける予防接種の持続可能性を確保するためには、国と自治体が協力して財政支援策を講じる必要があります。全国町村会は、自治体の財政力によって格差が生じないよう、国が責任を持って財政措置を行うことを要望しています。
このことを受け、厚生労働省、財務省、総務省は、年少扶養控除の廃止などに伴う地方増収分の一部を財源として活用することを検討しています。
未来に向けた予防接種体制の強化と課題
予防接種制度のさらなる充実に向けて、いくつかの課題があります。例えば、成人期に免疫保有率が低下する場合の対応や、新たなワクチンの定期接種化プロセスの迅速化などが挙げられます。
WHOが提唱する「生涯を通じた予防接種の提供環境の構築」も重要な課題です。これらの課題に取り組むことで、より効果的で持続可能な予防接種体制を構築できるでしょう。
予防接種の財政面の課題に向けて
予防接種は私たちの健康を守る重要な手段ですが、その持続可能性を確保するためには、さまざまな課題に取り組む必要があります。自治体の財政負担の増加は深刻な問題ですが、国との協力や独自の補助金制度の工夫により、解決の糸口が見えてくるでしょう。
地域住民一人一人に予防接種の意義を理解してもらい、自治体の取り組みに関心を持ってもらうことで、より良い予防接種体制の構築を実現できるのではないでしょうか。
【参考資料】
接種類型と定期接種化プロセスについて|厚生労働省|2022
【定期接種】定期接種化で市町村、数百億円の負担増へ/3ワクチンで交渉大詰め|京都府保険医協会|2013
予防接種に係る費用負担の あり方について|厚生労働省|2024
任意接種に係る公費負担の状況について|厚生労働省|2024