デジタル社会の実現に向けた重点計画|背景、取組内容、課題とは
issues(イシューズ)の米久です。
2023年6月9日「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。政府は「誰一人取り残されないデジタル社会」を目指すとし、様々な方面からデジタル社会に向けて積極的に動きを進めています。本記事では、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」とは何か、本計画ができた背景や具体的な取組、直面している課題についてご紹介します。
デジタル社会の実現に向けた重点計画とは
デジタル社会の実現に向けた重点計画(以下、重点計画)は、これからの日本が目指すデジタル社会の実現に向けて、迅速かつ重点的に実施すべき必要な考え方や施策についてまとめたものであり、関係者が構造改革や個別の施策に取り組み、また、それを世界に発信・提言する際の羅針盤となるものです。
様々な分野において、デジタル技術を活用する動きや重要性が高まっている昨今、世界水準のデジタル社会を日本が実現するためには、あらゆる取組を推進する必要があります。
重点計画ができた背景
新型コロナウィルス感染症が流行した際、世界と比較して日本はデジタル化の遅れが顕在化したことが背景にあります。
新型コロナウィルス感染症の対応において、国や地方の情報システムが不統一であり適切な連携がとれなかったことや、マイナンバー等のデジタル基盤に関する制度や手続の所掌が複数府省庁に分散していたことなどにより、デジタル化をめぐる様々な問題点が浮き彫りになりました。
こうしたデジタル技術の高度化に対応することなく、これまでのように当面を何とかしのぐような対応をしている限り、日本は世界の趨勢に乗り遅れ、国際競争力の低下を招くとの認識の下、令和2年「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が策定され、令和3年6月「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定、同年9月、デジタル庁が発足しました。
重点計画の取組について
デジタル庁は、デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、これまで以上に国民生活や事業者活動の利便向上、安全・安心が確保され、誰一人取り残されることなく、多様な幸せが実現できる社会を目指すため、6項目のデジタル社会で目指す姿と、10項目の重点的な取組を挙げています。
●デジタル社会の実現のため目指すべき姿6項目
- デジタル化による成長戦略
- 医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化
- デジタル化による地域の活性化
- 誰一人取り残されないデジタル社会
- デジタル人材の育成・確保
- DFFT※の推進をはじめとする国際戦略
※DFFT:Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通
●重点的な取組10項目
- マイナンバーカード/デジタル行政サービス
- デジタル臨時行政調査会によるアナログ規制の横断的な見直し
- 国・地方公共団体を通じた DX の推進
- データ連携基盤の整備・優良事例のサービス/システムの横展開
- 準公共サービスの拡充
- AI 活用及びデータ戦略の推進
- 国際的なデータ連携・越境データ移転の国際枠組み
- 事業者向け行政サービスの拡充
- デジタルマーケットプレイス試行導入
- 国家安全保障戦略等に基づく取組等の推進
1.マイナンバーカード/デジタル行政サービス
マイナンバーカードと健康保険証や運転免許証、在留カードなどを一体化することで、複数のカードを管理する必要がなくなります。マイナンバーカードのみ持ち歩き、安全・安心にあらゆる形で利用できるようになります。さらに、これまで書面で手続きをしていた確定申告や引っ越し手続き等の行政手続きがオンライン・デジタル化するなど、国民の生活向上につながることが期待されます。
以下、重点的に取り組む内容の詳細になります。
(1)申請・交付環境の整備
(2)行政サービス等の拡充
・健康保険証との一体化(2024年年秋に健康保険証を廃止)
・運転免許証との一体化(2024年度末までの少しでも早い時期に運用開始)
・在留カードとの一体化
・障害者手帳との連携の強化
・年金情報との連携の強化(2024年を目途に「ねんきん定期便」情報をマイナポータル上でプッシュ型通知機能の構築)
・就労分野での利用の促進(2024年度から原則マイナンバーカードに移行)
・資格情報のデジタル化
・確定申告の利便性向上に向けた取組の充実
・引越し手続のデジタル化の更なる推進とデジタル完結の検討
・死亡相続手続のデジタル完結
・在外選挙人名簿登録申請のオンライン化等の検討
・「市民カード化」の推進 (図書館カードや印鑑登録証、書かない窓口の実現など自治体による利活用を支援)
(3)民間サービスとの連携
・行政サービスにおける民間サービスとの連携
・様々な民間ビジネスにおける利用の推進(地域通貨と連動した地域の消費や地域ポイント、コンビニセルフレジでの酒・たばこ販売時の年齢確認サービス、自治体マイナポイントの効果的な活用など推進)
・マイナポータル API の利用拡大等による官民のオンラインサービスの推進
(4)公金受取口座の活用推進
(5)スマートフォンへの搭載等マイナンバーカードの利便性の向上
(6)次期マイナンバーカードの検討・・・2026 年中を視野に次期マイナンバーカードの導入を目指す。法改正が必要な場合は、2024年通常国会への法案提出を目指す。
2.デジタル臨時行政調査会によるアナログ規制の横断的な見直し
日本が目指すデジタル社会の実現に向け、下記はデジタル技術を活用するためのルールを整える取組になります。
(1)アナログ規制の横断的な見直し・・・デジタル化の効果を最大限発揮するため、規制の見直しを行い2024年6月までを目途にアナログ規制を一掃。
(2)テクノロジーマップ等の整備
(3)デジタル法制審査
(4)官報の電子化
(5)手続のデジタル完結と利便性向上
3.国・地方公共団体を通じた DX の推進
国や地方公共団体を通じてデジタル改革を推進するための具体的な取組が以下の通りです。
(1)デジタル推進委員の活用
(2)地方公共団体のアナログ規制の見直し・・・条例等のアナログ規制の課題調査の実施と「地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しマニュアル(2022年11 月公表)」の改訂。
(3)情報連携基盤(公共サービスメッシュ)の整備
(4)自治体窓口 DX「書かないワンストップ窓口」
(5)自治体キャッシュレス
(6)地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化 ・・・2025年度までにガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへ移行できる環境を整備。
(7)国・地方公共団体のガバメントクラウド移行
(8)デジタル化を支えるインフラの整備
4.データ連携基盤の整備・優良事例のサービス/システムの横展開
官民でデータ連携の基盤整備や、マイナンバーカードの利活用を中心に、地域のデジタル実装の優良事例を支えるサービス、システムのカタログ化を進め公表します。
(1)データ連携基盤の整備
(2)優良事例のサービス/システムの横展開
5.準公共サービスの拡充
以下、準公共分野のデジタルサービスを拡充するための取組になります。
(1)健康・医療・介護分野
・電子カルテの標準化 (標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテ(標準型電子カルテ)について、2024年度中に開発に着手。)
・電子処方箋の促進 (電子処方箋について、オンライン資格確認を導入したおおむね全ての医療機関・薬局に対し、2025年3月までに普及。)
・医療・介護・子育て支援における助成券、診察券などとの一体化
・母子手帳との連携の強化
・ 診療報酬改定 DX(医療機関等の各システム間の共通言語となるマスタ及びそれを活用した電子点数表を改善、2024年度中に提供。診療報酬の算定と患者の窓口負担金計算を行うための全国統一の共通算定モジュールの開発を進め、2025年度にモデル事業を実施した上で、2026年度に本格的に提供。)
・オンライン診療の促進
(2)教育・こども分野
・データ駆動型の教育の推進
・学校等と家庭とのコミュニケーション
・こどもに関するデータ連携の検討
・就労証明書の地方公共団体へのオンライン申請
(3)防災分野
・ 防災デジタルプラットフォームの構築 (防災 DX を推進するため、災害対応機関で共有する防災デジタルプラットフォームを2025年までに構築。このため、基本ルールの策定、中核となる次期総合防災情報システムの開発・整備し2024年度運用開始予定。)
・住民支援のための防災アプリ開発・利活用の促進等とこれを支えるデータ連携基盤の構築等
(4)モビリティ分野
・モビリティ・ロードマップの策定
・4次元時空間 ID を含めた空間情報基盤の整備
・モビリティ分野におけるデータ連携
(5)インフラ分野(「電子国土基本図」の整備・更新)
6.AI 活用及びデータ戦略の推進
以下、AI活用及びデータ戦略を踏まえた取組を推進します。
(1)AI 活用に係る取組 ・・・①今後の AI の活用の基盤となるデータの整備等を含むインフラの整備・強化に向けた検討・取組②AI の実態と動向を把握し、官民における適切な活用に向けた検討・取組を進める。
(2)包括的データ戦略の推進と今後の取組 ・・・特に重点的に取り組むべき施策として、ベース・レジストリ等に関する施策を推進。ベース・レジストリとは、公的機関等で登録・公開され、様々な場面で参
照される、人、法人、土地、建物、資格等の社会の基本データであり、正確性や最新性が確保された社会の基幹となるデータベースのことで、これに関する制度化の検討と、法人・土地系の注力領域における価値創出の両輪で進める。
7.国際的なデータ連携・越境データ移転の国際枠組み
以下、データ連携とデータ移転の国際的な枠組みをつくるための取組です。
(1)国際的な官民連携枠組みの設立
(2)eID の相互活用・信頼の枠組み ・・・eID とは Electronic identity の略称であり、電子化された属性情報の集合として、電子的な識別目的、利用者属性確認、資格情報確認等に用いられる。一般的な用語であり、EU eID 等の特定の ID 体系を指すケースも存在する。
(3)簡易な国際間送金
8.事業者向け行政サービスの拡充
以下、事業者向け行政サービスの利便性を高める取組になります。
(1)e-Gov の拡充・・・e-oGovで提供している機能を他のオンライン申請において利用可能とするためにe-Govの追加機能を整備。また、事業者手続き全体のポータルサイトとして利便性向上を図る。
(2)G ビズ ID の普及・・・事業者(法人、個人事業主)が、様々なサービスにログインできる認証サービスを実現する「G ビズ ID」の拡充と、商業登記電子証明書との連携、民間サービスとの連携の在り方について整理・検討。
(3)J グランツの刷新 ・・・汎用的な補助金申請システム(J グランツ)。2024年度を目途に、システムアーキテクチャ及び UIの刷新を行い、申請時の事業者・事務局双方の負担軽減を図る。
(4)中小企業支援の DX 推進
(5)政府調達におけるスタートアップ支援
9.デジタルマーケットプレイス試行導入
デジタルマーケットプレイス(DMP)とは、デジタル庁とあらかじめ基本契約を締結した実績のある事業者が、デジタルサービスを登録するカタログサイトを設け、そのカタログサイトより各行政機関が最適なサービスを選択し、個別契約を行う調達手法のこと。
より先端的な技術や知見を活用しやすくし、国・地方公共団体の行政サービスの向上を図る観点、行政における情報システム調達を迅速化するとともに、中小・スタートアップ企業等の多様な事業者が参入しやすくなる等の観点から、デジタルマーケットプレイスに関するプロトタイプ構築・実証を実施する。
10.国家安全保障戦略等に基づく取組等の推進
「国家安全保障戦略(2022年12 月16日閣議決定)」等に基づき、政府全体として関連する施策を実施。サイバー安全保障の政策を総合調整する新たな組織の設置、法制度の整備、運用の強化、インターネット上の偽情報への対策についてなど対応を進める。
重点計画の課題
様々な個人情報とマイナンバーカードを一体化することで便利になる反面、個人情報の漏洩や紛失、漏洩による不正利用が懸念されます。
マイナンバーの公金受取口座に他人の口座が登録されるミスが相次いだ問題で、デジタル庁は個人情報保険委員会から行政指導を受けるほか、マイナンバーが他人の健康保険証の医療情報に紐づられていたケースなど、誤登録等の事案が発生しています。
デジタル庁は個人情報保護について、係る人員の充実強化や専門的な知見を持つ専門人材の活用など、個人情報保護体制等の更なる強化を掲げ、研修内容や内部監査などの更なる充実を図ると発表しています。国民の不信感が強まってしまった現在、情報の適切な取り扱いの周知徹底を図ることが求められます。
まとめ
本記事では、2023年6月9日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」とは何か、重点計画ができた背景や具体的な取組、直面している課題についてご紹介しました。
デジタル庁は、誰一人取り残されない、人に優しいデジタル社会の実現を目指しています。安全・安心の確保の側面においてはまだ課題が残っている一方、重点計画によって変わる国民生活や事業者活動の利便性向上を図ることが期待されます。
<参考資料>
デジタル社会の実現に向けた重点計画|デジタル庁|2023年