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富裕層向け観光サービスの成功事例に学ぶ地方創生の新たな可能性

issuesのにしのです。
富裕層向けの観光サービスは、地方創生の鍵を握る重要な施策の一つとされていますが、まだまだ十分な取り組みを行なえていない自治体も多いのではないでしょうか。この記事では、なぜ富裕層向けの観光サービスが重要なのか、そして自治体やDMOなどが行う取り組み事例を紹介します。ぜひ最後までお読みいただき、地方の観光振興における富裕層誘致の参考にしていただければ幸いです。

富裕層向けの観光サービスが後れを取っている実態

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世界的に富裕層の人口は増加しており、各国や都市は富裕層観光の需要を取り込むために積極的な取り組みを行なっています。日本でも2018年に年間訪日観光客が3,000万人を突破し、その後もインバウンド需要は確実に増加傾向にあります。

しかし、日本は富裕層向け観光サービスの後進国であると言わざるを得ません。富裕層による旅行は全海外旅行者の1%に過ぎませんが、その消費額は全体の13.1%を占めています。ところが、日本における富裕層の消費額はわずか1.3%にとどまっています。

世界的にも魅力的なコンテンツを持っているにもかかわらず、日本は富裕層向けの観光サービス構築に後れを取っています。地域の発展と産業成長の両面を考慮し、自治体単位でも富裕層のニーズに合った高品質なサービスを提供する意識が必要です。自治体やツーリズム事業者は富裕層観光の重要性を認識し、その需要に応えるための戦略を画策していきましょう。

なぜ富裕層向けの観光サービスが重要なのか

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富裕層向けの観光サービスが重要な理由は、彼らが旅行で消費する金額が高いだけではありません。物質的に恵まれている彼らが求めるのは単なる「消費」ではなく、そこの場所でしか得られない「体験」です。観光産業が地域の主力産業であるならばこそ、富裕層の誘致が不可欠なのです。

富裕層に支持されるコンテンツは一般旅行者にとっても「憧れ」となり、そのブランドは広い層に影響を与えます。その波及効果は、国の目標である「2030年に15兆円」という訪日外国人旅行消費額の達成に欠かせない要素となるでしょう。

地域の観光サービスを活性化させるためには、旅行者の数を増やすことだけでなく、いかに富裕層を取り込めるかが持続的な発展の鍵となります。

自治体やDMOなどによる富裕層向け観光サービス取組事例

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富裕層向けの観光サービスは、地域の魅力を最大限に活かし、独自の価値を提供することが求められます。以下では、愛媛県大洲市の「大洲城キャッスルステイ」、宮城県の「松島地域」での1時間75万円のヘリコプター体験、そして青森県青森市の「青森ねぶた祭」での1組100万円のプレミアム席など、自治体やDMOが富裕層をターゲットにした施策に取り組んだ事例を紹介します。

愛媛県大洲市「大洲城」の事例 ~大洲城キャッスルステイ~

大洲市の大洲城では、2020年から日本初の木造天守の城泊「大洲城キャッスルステイ」を開始しました。このプランは、日本の歴史に興味を持つ富裕層に向けて展開されており、文化遺産の歴史的意義や環境、武将の生活など、他では得られない体験価値を提供します。

老朽化した天守閣を木造で完全復元し、1泊110万円(2名利用時)のプランを提供しています。この価格設定は、メディア発表時のインパクトを重視し決定されました。100万円という高額な料金が先にあり、その価値に見合う体験を提供するという順番で設計されたのが特徴的です。

宿泊者は、普段経験できない特別な体験を楽しんでいます。甲冑に着替えての入城体験や雅楽、伝統芸能の鑑賞、天守閣での宿泊など、戦国武将の生活を体験できる点が特に評価されています。

大洲城キャッスルステイは大洲市全体に良い影響を与えています。同時期にオープンした分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」が地元の経済に新たな活性化をもたらし、従来の日帰り主体の観光から一転、裕福な顧客層の宿泊滞在が増加しました。

地元の方々からも「目に見えて来ているお客さんの層が変わった」「街全体が変わった」と喜びの声が聞かれ、地域活性化に寄与していることが明らかな事例です。

宮城県「松島地域」の事例 ~1時間75万円〜のヘリコプター体験~

仙台を中心とした6市3町のDMO、インアウトバウンド仙台・松島では、松島湾などの上空を遊覧し仙台空港に戻る周遊型観光サービスを提供しています。1機の料金は周遊型観光1時間で75万円と高額ですが、訪日客の富裕層が1回の滞在で200万円以上を使う背景から、十分需要が見込まれる価格として設定されています。

さらに利用客の要望に合わせて目的地やコースをアレンジできる価値を付加し、料金も距離や飛行時間に応じて変動させています。「柔軟性が高いサービスで特別感を得られる」と、訪日客から大きな注目を集めています。

インアウトバウンド仙台・松島では観光客の数に注目するのでなく、観光資源の高付加価値化を最重視。キャッシュポイントを明確にし、「高価格旅行商品」を作ることに注力しています。具体的には東北の位置や移動手段、周辺ホテルの選択肢などを網羅的に発信・提案し、顧客の負担を限りなく軽減させています。

また、人々の暮らしや昔生きた人の痕跡を利用して地域固有のストーリーを作り、そこでしか体験できない旅行コンテンツを提供。この取り組みは、観光資源をしっかり商品化し、地域経済を活性化させた好事例として注目されています。

青森県青森市「青森ねぶた祭」の事例 ~1組100万円のプレミアム席~

青森ねぶた祭の100万円のプレミアム観覧席は、株式会社オマツリジャパンが主導しているユニークな取り組み。同社は祭りの運用に際し、青森県庁や青森市との共催形式という第三者的な立場で関与しています。この立場で関わってもらうことで、客観的なジネスの発想を祭りに取り込み、新しい試みにつなげています。

具体的にはVIPシート、ボックスシート、そしてペアシートという3種類のプレミアム席が設けられ、地場産素材の郷土料理や地元のお酒が提供されます。VIPシートでは、専属のコンシェルジュとねぶた師による解説が付き、100万円で最大8名での観覧が可能です。

この取り組みでは、富裕層の知的好奇心を満たすために、単なる観覧席確保以上の体験が提供されています。料理やお酒だけでなく、座席の装飾や接客スタッフの衣装、照明など、細部にわたりねぶた祭の世界観と調和した演出が施されています。

ねぶた祭のプレミアム席は富裕層のニーズに応えると同時に、混雑を避けた高品質なサービスを提供することに成功しました。2023年のプレミアム席には各地から利用客が訪れ、週末を含む日程はほぼ完売し、インバウンド客がその多くを占めました。初めての祭り体験をより良い環境で楽しみたいという需要に見事に応え、顧客満足度の高い成功事例となっています。

地方創生のカギを握る富裕層の誘致促進を

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この記事では、各地の先行事例を参考に、富裕層向けの観光サービスについて解説してきました。大洲城キャッスルステイや松島の1時間75万円のヘリコプター体験、そしてねぶた祭の1組100万円のプレミアム席などの事例から、富裕層を魅了する施策を学べたことと思います。

コロナ禍後の旅行者の心理は「量より質」を求める傾向にあります。これは富裕層に限らず広く見られる動向であり、高品質で特別な体験を望むニーズが高まっていることを表しています。この動向を踏まえ、各自治体やDMOは富裕層にとって魅力的な観光サービスを提供することが求められるでしょう。

この記事を通じ、ぜひお住まいの地域の観光振興における取り組みに活かしていただければ幸いです。

【参考資料】
https://www.dbj.jp/topics/region/industry/files/0000027762_file2.pdf
https://www.jnto.go.jp/projects/regional-support/news/2129.html
https://castlestay.ozucastle.com/
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000028.000025031.html