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ハラール認証制度の成功事例|ムスリム旅行者が安心できる地域へ

 

issues(イシューズ)の米久です。
今年2024年3月の訪日客は、統計開始から初となる300万人超えを記録しました。日本を訪れる外国人が急増している中、注目すべきカテゴリーの1つとして挙げられるがムスリム旅行者です。2020年にムスリム人口は19憶人に達し、世界人口の約4分の1を占めています。そして、イスラム教は世界三大宗教の内の1つに数えられますが、日本ではイスラムに関する知識や理解が十分とは言えず、訪日する旅行者の多くは困りごとを抱えています。本記事では、イスラム教徒(ムスリム)が安心して食やサービスを受けられるようにできた制度「ハラール認証制度」とは何か、制度ができた背景と認証を受けることで得られるメリット、岡山市、台東区、茨城県農協の先進的な事例をまとめました。是非最後までお読みいただき、地域のインバウンド対策として参考にしていただけますと幸いです。

ハラール(ハラル)認証制度とは

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ムスリムの宗教のルールに従って許されているものを「ハラール(ハラル)」と言い、一方禁止されているもの、または行為は「ハラーム(ハラム)」となります。ハラール(ハラル)認証制度とは、ハラーム(禁止されているものや行為)を避けているか、ハラール(許されているもの)かどうか専門の認証機関が監査し、製品の保障を認証する制度です。

原則としてハラールな食材は野菜、果物、魚類、水などです。豚やアルコール、豚以外の動物由来食材等はハラームのためムスリムは口にすることを禁じられています。

ハラール認証制度は、製品の原材料の安全性を担保するだけでなく、製造ラインや管理体制などあらゆる面でハラーム(禁止されているものや行為)が含まれていないか確認します。豚やアルコールの成分の排除は勿論のこと、ハラールに対応した飼料での飼育かどうか、豚肉等のハラーム製品と隔離した施設で処理や加工、保管、陳列を行ったかなど、厳格で複雑なルールが設定されています。

※ハラール認証制度の対象は食品だけでなく、化粧品やトイレタリー用品、身に着ける物など多岐に渡ります。

 

ハラール(ハラル)認証制度ができた背景とメリットとは

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1960年代のマレーシアで、ムスリムが安心して食品を口に入れることができるよう、国がチェックをしたことが現在のハラール認証制度の始まりです。マレーシアは複数の異なる民族や宗教が共存して生きる多民族・多宗教国家であり、どれがハラール食品なのか判断が難しいことから、このような制度ができました。

世界人口の約4人に1人は、イスラム教徒(ムスリム)であると言われており、インバウンド需要が高まる日本でも無視できない存在です。日本を含め、ムスリム以外の国ではどの商品がハラールであるのか判断が非常に難しいという問題があります。ハラール認証マークを付けることでムスリムが安心して手に取ることができる製品やサービスがわかります。ハラール認証を受けることで、ムスリム市場への展開や訪日旅行客の獲得に期待ができるというメリットがあります。

 

ハラール(ハラル)認証制度の成功事例

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本事例集は、ハラール認証制度の導入に興味がある自治体の取り組みの参考となるよう、既にハラール認証を取得し、ハラール商品の製造・販売の実績がある事例や、ハラール認証制度の取得を後押しする先進的な事例をまとめました。

 

岡山県岡山市の事例

岡山市は、両隣に神戸と広島という知名度の高い観光地に挟まれています。独自の取り組みで存在感を示すため、また今後東南アジアからの訪日客やムスリム人口が増加する見通しに目をつけ、ムスリムの訪日旅行者をターゲットとしたハラール認証や独自制度のピーチマークを導入、整備しています。

2016年に吉備中央町で日本初となるハラール認証を受けたパン製造工場が開業しました。岡山県産のコシヒカリやあきたこまち等のお米を原料とした米粉を使用して、無添加のパンやスイーツを製造、販売しています。誰にとっても安心・安全の味を届けることを実現し、インバウンドで地域創生を図っています。また、ハラール認証取得の勉強会の実施など市内各地でムスリムに対応できるよう環境の整備を進めています。

岡山市は独自の基準でムスリム対応が可能な宿泊施設や飲食店、製造業を認定する制度「ピーチマーク」に取り組んでいます。現実問題として、ハラール認証を取得するためには非常に厳格で複雑な条件のクリアが必要となり、認証取得費用もかかるため対応が難しいという課題があります。そこで岡山市では、「ピーチマーク」というイスラムの宗教上のルールに沿った独自制度を導入し、豚肉やアルコールが含まれていない、原材料の英語表記がある等の認証基準を設けています。ムスリム本人に食品やサービスの内容を確認してもらい、その店を利用するのか、料理を食べるのか判断してもらうことでムスリムの選択肢を広げることができています。

●岡山では、ムスリム旅行者の受け入れ整備に「ピーチマーク」を開始

 

茨城県農協の事例

茨城県のJA常陸が生産している米醗酵アイスや飲むヨーグルト、ジャム、お米の4品目がハラール認証を取得しました。

日本初となるお米を醗酵させて作った「米醗酵アイス」は、バニラと栗の2種類があります。地域の特産品である常陸太田市産の米「コシヒカリ」を発酵させたピューレと、牛乳や卵の代わりに豆乳を使用した動物性脂肪ゼロのアイスとなっており、「これはハラール対応の食品かもしれない」ということで認証を取得する流れになったそうです。

ハラール認証を取得するには非常に複雑な条件をクリアする必要がありますが、既にある商品がその条件を満たしている場合もあります。「米醗酵アイス」は、アラブ首長国連邦のドバイへ輸出するなど、ハラール認証を取得することでイスラム圏への更なる販路拡大が期待できます。

●産地持ち味生かす 農産加工品を輸出  - JA常陸

●ハラールとは? 認証を受けて成功した農家の事例も紹介

 

東京都台東区の事例

台東区では全国初の制度として、ムスリム旅行者が安心して飲食や観光を楽しんでもらうため、平成27年度から台東区ハラール認証助成制度を実施しています。

助成対象者は、台東区内に店舗を構えるレストランや喫茶店、弁当屋、和・洋菓子店などで、助成金額は助成対象経費の2分の1以内、上限10万円となります。これにより、ハラール認証取得にかかる費用の負担が軽減されます。ハラール認証を取得することで、より多くのムスリム訪日旅行者などを集客する機会を得ることが期待できます。

本助成金はハラール対応だけでなく、ベジタリアン認証やヴィーガン認証、コーシャ認証(ユダヤ教)も対象となっており、様々な食の多様性に応じる形となります。台東区では国籍や宗教、文化の有無にかかわらず、すべての人が安心して楽しめる旅行になるよう対応を図っています。

●「台東区食の多様性に関する認証取得助成制度」のご案内

 

まとめ

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本記事では、岡山県岡山市、東京都台東区、茨城県農協の例を挙げ、ハラール(ハラル)認証制度の取り組みについてご紹介しました。ハラール認証を取得するには、厳格なルールをクリアする必要があることや費用がデメリットとなります。しかし、訪日するムスリム旅行者にとってハラール認証マークの付いている商品やサービスは大きな付加価値となります。本記事で紹介した先進的な事例を参考にしていただき、ムスリムへの知識や理解を深め、地域の魅力をより広めるためのきっかけとなりましたら幸いです。

●ムスリム旅行者おもてなしハンドブック|東京都