生活保護問題と自治体の事例から学ぶ多様な支援とは

issues(イシューズ)の米久です。

失業や収入が減るなどコロナ禍の影響が長引いている中、物価高が重なり生活保護申請が4年連続で増加しています。本記事では、改めて確認したい生活保護制度とは何か、現状と問題点、生活保護制度だけではなく、困窮者自立支援にも目を向けるなど自治体の多様な取り組み事例を詳しくまとめました。ぜひ最後までお読みいただき、改めて生活保護の問題点に目を向けていただけますと幸いです。

 

 

改めて確認したい「生活保護制度」について

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生活保護制度とは、資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度です。(支給される保護費は、地域や世帯の状況によって異なります。)

(引用:生活保護制度|厚生労働省

 

生活保護制度で受けられる保護8つ

生活保護制度には8つの扶助があり、内容は以下の通りです。

①生活扶助 食費、被服費、光熱水費等の日常生活に必要な費用
②教育扶助 義務教育を受ける上で必要となる費用(給食費、教材費等)
➂住宅扶助 家賃、地代等の必要となる費用
④医療扶助 病気やケガの治療等の医療機関に支払う費用(薬代等)
➄介護扶助 介護サービスを利用するために必要となる費用(食事負担額等)
⑥出産扶助 分娩等で必要となる費用
➆生業扶助 就労に必要な技能を身につけるために必要となる費用、高等学校の就学費用等を含む
⑧葬祭扶助 葬祭で必要となる費用

 

生活保護受給者の権利とは

①すでに決定された保護は、正当な理由なく保護費の停止や減額など不利益な変更をされることはない。(不利益変更の禁止/生活保護法56条)。
 

②すでに保護により支給された金品には税金をかけたり、差し押さえられたりすることはない。(公課禁止/生活保護法法第57条、差押禁止/生活保護法法第58条)

➂保護の内容に不服があるときは、決定があったことを知った日の翌日から決算して3ヶ月以内に、当該市町村を経由し、都道府県知事に審査請求をすることができる。(不服申立て/生活保護法第64条)

 

生活保護制度の現状と問題点

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平成30年、生活困窮者等の自立を促進するための生活困窮者自立支援法等の一部が改正されました。その後も国と地方が生活保護制度の見直しについて幾度も協議をしています。生活保護受給者等の自立を支援するため、労働局・ハローワークと地方公共団体が協議を締結し、ワンストップ型の就労支援体制の設置を全国的に整備しました。生活保護受給者等が相談できる常設窓口は212か所(令和3年4月末時点)、巡回相談は819か所(令和3年度実績)設置されています。

令和4年、厚生労働省が発表した資料によると、生活保護受給者世帯数は約164万世帯で、高齢者世帯が増加している一方、母子世帯は減少傾向が続いています。そして、生活保護を受けている人の半数は65歳以上の方となっています。

生活保護制度の就労支援の課題として、受給者の高齢化や障害者、長期離職者、ひきこもりなど就労に向けて課題を抱えている者の割合が増加している現状にあります。就労意欲を失い、日常生活や社会生活の自立に向けた支援が必要な者等が少なくないことことを踏まえ、利用者本人の状況や能力、本人の意向を十分把握した上で「多様な働き方」に向けた支援を行う必要があります。

生活保護制度は誰もが受けることのできる権利ですが、生活保護に対しての偏見が世間全体にないとは言い難く、生活に困難を感じている人や支援が必要な人が、生活保護制度の申請を遠慮してしまう、できていないという現状があります。

また、行政の問題としては、一部の自治体で生活保護受給者への対応にバラつきがあり、高圧的で不適切な対応をされたという案件も少なくありません。利用者を毎日来所させ保護費を分割支給したことや、満額の支給をしなかった事例、誤った説明を行い生活保護制度の申請を受理しなかった事例など不適切な対応が相次いでいます。また、「運転記録を提出しなかったことで保護停止」をした自治体など、不適切な保護打ち切りは違法だとして裁判で損害賠償を支払うよう命じられた事例もあります。これらの問題には不正受給者の取締り強化という背景があることや、ケースワーカー個人の資質の問題ではなく研修不足など自治体の体制の部分が大きく、第三者委員会を設置するなどして生活保護の適正化を図る自治体もあります。

◉生活保護制度の現状について|厚生労働省

◉就労支援のあり方について|厚生労働省

◉神奈川区で発生した生活保護申請対応不適切事案

◉生活保護業務の改善について|桐生市

◉生活保護停止を取り消し|鈴鹿市

◉生活保護行政のあり方検討会|小田原市

 

【生活保護制度】自治体の取り組み事例

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生活保護世帯や生活困窮世帯まで支援を拡大するなど、自治体の取り組み事例2つをまとめました。それぞれの地域に適切な支援内容とは何か、是非ご自分がお住まいの地域の制度と比較して参考にしていただけますと幸いです。

 

埼玉県|生活保護世帯の子どもたちへ「貧困の連鎖」を防ぐ

生活保護受給世帯の子どもが大人になって保護を受給するといった貧困の連鎖を防止するため、生活保護受給世帯の子どもを対象とした学習支援等の取り組みを実施しています。

全国に先駆け、埼玉県では平成22年に中学生を対象に高校進学に向けた学習支援事業を5教室で開始。支援員やボランティアによるマンツーマンの学習支援を実施しました。平成25年からは高校生中退防止支援にも取り組んでいます。また、支援対象者を生活困窮世帯まで拡大し、令和5年3月末時点で埼玉県内で中学生教室112教室、高校生教室78教室まで事業が広がっています。

また、定期的に家庭訪問支援を行い、子ども及び親に対して周りには相談できない悩みの聞き取りや高校進学に向けた意欲喚起、手続きの支援等を実施しています。

平成30年からは生活困窮世帯の小学生を対象とした学習支援を開始しました。子どもの学力や非認知能力の格差は小学生から発生するとし、学習サポート、職業体験などの体験活動、食育や挨拶などの生活習慣定着に向けて取り組んでいます。

◉子どもの貧困への対応について

◉生活保護受給者チャレンジ支援事業

 

鳥取県北栄町|困窮者支援を切り口とした新たな地域づくり

北栄町は、地域内の産業や福祉別分野の事業と連携を図りながら、多様な働き方の機会を提供しています。北栄町の特色である農福連携などの地域づくりを意識した就労支援を行っており、農家の高齢化と担い手不足など地域の潜在ニーズに焦点をあてています。収穫時や配送支援など繁忙期に必要な農作業人材の紹介、地域の他分野・他施策との協働、支え合いによる地域づくりを行う事業所に対して、事業の初期経費と運営費の一部の支援を実施するなどの経済支援も実施しました。

また、就労訓練事業「トマトの会」を県内で認定し、すぐには一般企業等で働くことが難しい課題を抱える人の受け入れ、個人の状況に応じた就労訓練を提供するとともに、生活リズムの改善や社会参加などを経て最終的には一般就労に繋げることを目標に支援を行っています。

高齢、障害、子ども、生活困窮、ひきこもりや地域から孤立している者など様々な課題が複合化し、従来の縦割り制度では十分に対応しきれない問題を踏まえ、地域全体で自分ごととして捉え、課題を解決するべく行政と民間が協働して地域福祉を推進する体制を整備しています。

また、相談支援担当者のスキルアップ等も重要であると考え、福祉施策アドバイザーを設置し、常時アドバイスが得られる環境を整備するなど内部からの適切な体制作りにも取り組んでいます。

◉生活困窮者就労訓練事業

◉就労支援を通じた地域づくり

◉北栄町地域福祉推進計画

 

生活保護制度と生活困窮者自立支援制度の連携も重要

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本記事では、改めて確認したい生活保護制度とは何か、生活保護の現状と課題、生活保護制度に関する自治体の取り組み事例を3つ紹介しました。

生活保護制度は生活困窮者自立支援制度の連携も重要であり、両制度の共通理念である「自立を支援する」を下に、両制度の関係者同士で相互理解を深めた上での支援をすることや、連携のための取り組み内容の見直し、ケースワーカー等の人材育成も必要になります。

誰もが安心して生活保護制度を利用できるように、そして生活保護制度の正しい理解と支援のため本記事が参考になれば幸いです。

◉生活困窮者自立支援制度と生活保護制度の連携のあり方について