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自治体の新たな産後ケア戦略|未来を拓く子育て世帯支援

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2019年12月6日に改正母子保健法が公布されたことを受け、産後ケア事業の実施がすべての市町村の努力義務となり、2024年度末までの全国展開を目標に計画が進められています。この記事では産後ケアの内容や事例をもとに、各自治体が取り組んで行きたい事業内容について解説していきます。ぜひ最後までお読みいただき、子育て世帯が住みよい地域を作る際の参考としてご活用ください。

産後ケアを事業として自治体が行う意義

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産後は母親にとって体が妊娠前の状態に戻ろうとする時期であり、心身ともに不安定な状態です。育児に伴う負担は想像以上であり、特に近隣の支援が限られる現代では、母親の負担は増大しています。産後ケアは、これらの心身の不安を取り除き、育児技術を身につけるための支援を提供します。

自治体は地域の医療機関と連携し、産後ケア事業を実施しています。助産師などの専門家が母親をサポートし、授乳や沐浴などの育児技術を指導します。この支援により母親は少しずつ自信をつけることができ、母子ともに健やかな子育てにつながっていきます。

2023年には産後ケアの対象者が拡大されました。これまでは「産後に心身の不調又は育児不安等がある者」「 その他、特に支援が必要と認められる者」だったところを、「産後ケアを必要とする者」と大幅に緩和し、支援を必要とする全ての方が利用しやすくなりました。国は2024年度末までの全国展開を目指しており、すでに多くの自治体で実施されています。

産後ケア事業は、地域のこれからを支える世代が住みやすい環境を作るために不可欠です。各自治体は優先的に取り組むべき事業であり、母親が安心して育児に取り組める環境を整えることが求められています。

産後ケア事業の内容と自治体による補助

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産後ケア事業は、母親の身体的、心理的なケア、授乳指導、育児相談、生活支援など、専門家によって提供されます。日帰り型、宿泊型、訪問型の3つのサポート方法があり、各地域でサービス内容や利用条件は異なり、料金も一律ではありません。

多くの自治体では、指定施設で産後ケアを利用すると、補助金が適用されて低料金で受けられます。補助適応後の自己負担額は、日帰り型は1日につき1,000円から4,000円、宿泊型は1泊2日につき6,000円から1万円程度が一般的です。また利用者増加に注力する自治体では、独自の取り組みとして自己負担を無償化している事例も増えてきています。

産後ケアは母子の健康と幸福に直結する重要なサービスです。母親のニーズに対応したケアを推進していくために、地域社会全体でのサポートを一層強化していく必要があります。

産後ケア事業における課題と対策

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産後ケアの提供は、全ての必要な方々が利用できるように計画的な体制整備が不可欠です。これには市町村だけでなく都道府県も重要な役割を果たします。例えば、受け皿の拡大や妊産婦の医療的な支援などにおいては、市町村単位では委託先が確保できない場合もあります。この場合、市町村の区域を超えた広域的な調整が都道府県に求められます。

たとえば市区町村が実施する産後ケア事業を「地域子ども・子育て支援事業」と位置づけるなど、国・都道府県・市町村の役割分担を明確にし、提供体制の整備を進める観点が必要になってくるでしょう。

産後ケア事業の課題に対処するには、地域と都道府県レベルでの連携強化が必要です。市町村が担う役割を明確にし、都道府県が補完的なサポートを行うことで、より包括的で効果的な産後ケアの提供が実現されます。

福井県高浜町の事例 ~民宿や旅館とのコラボで産後ケア~

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福井県高浜町では、産後ケアの取り組みとして民宿や旅館とのコラボが注目を集めています。町の子育て世代包括支援センターを中心に展開されている「産後デイサービス」は、助産師や保育士などの専門家が民宿や旅館で母乳相談や育児相談を行うとともに、入浴や昼食交流などのサポートを提供しています。

この取り組みのユニークさは、地域の民宿や旅館がその場所を提供することにあります。その結果、高浜町は2019年に厚生労働省主催の「健康寿命をのばそう!アワード」で厚生労働大臣賞・自治体部門優秀賞を受賞し、地域の子育て支援の模範事例として認められました。

現在、この取り組みに参加している民宿や旅館は4施設あります。母親は子供を預けることで自由な時間を得ることができ、昼食や入浴などをゆっくりと楽しむことができます。特に夜泣きなどで睡眠が不足している母親は、別室で眠ることもできます。利用料は手頃な1回1,500円で、助成回数も4回まで可能です。

この取り組みは、産後の孤独やプレッシャーを感じている母親たちにとって心強い支援となっています。また、年齢の近い他の母親との交流も大きなメリットとなっており、地域全体の子育て支援に貢献しています。町としても、この取り組みを通じて「幸せな子育てができる自治体」としてのブランディングが進み、町外からの集客にもつながっています。

産後ケアを民宿や旅館とのコラボで提供する取り組みは、地域の子育て支援に新たな可能性をもたらしています。地域創生の観点からも学びの多い試みであり、他自治体にも広がることが期待されます。

栃木県栃木市の事例 ~産後ケア自己負担ゼロ~

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栃木市では、2023年11月から産後ケアを利用する市民の自己負担を無料化しました。この取り組みは、国の補助金や県の支援事業に加え、市の予算を上乗せすることで実現されています。

産後ケア自己負担額の無料化は、栃木県内の市町で初めての試みです。これまでの制度では、短期入所型1回の自己負担額が5,000〜18,000円必要で、経済的な理由から利用をためらう母親も多いことが課題でした。今回の自己負担ゼロ化は社会的包摂の観点からも重要であると言え、無料化を契機に利用者数の増加が期待されています。

具体的な支援内容としては、短期入所型の産後ケア利用であれば、原則7回までの利用が無料となり、食事代も含まれます。さらに、助産師の訪問エリアも市内に限らず県内全域に拡大したことで、里帰りした市民も利用しやすくなりました。

栃木市健康増進課は、「お母さんが相談しやすい環境を整えることで、少しでも子育ての安心につながれば」と述べています。この言葉が示すように、産後ケア自己負担ゼロの政策は、地域社会全体の安心と幸福を築くための重要な一歩となるでしょう。

産後ケア利用拡大を促し子育て世帯が住みよい地域に

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この記事では、福井県高浜町と栃木県栃木市の事例を参考に、産後ケア事業における自治体の取り組みについて解説してきました。受け皿の拡大や自己負担軽減のアイデアを参考にして、ぜひお住まいの地域でも、子育てをしやすい環境作りのヒントとしていただければ幸いです。

【参考資料】
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/4dfcd1bb-0eda-4838-9ea6-778ba380f04c/5f0272ee/20230401_policies_boshihoken_tsuuchi_2023_36%20.pdf
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ce28e632-7504-4f83-86e7-7e0706090e3f/1d73c9a2/20231122_councils_shingikai_seiiku_iryou_tWs1V94m_04.pdf
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/sanzensangogaidorain.pdf
https://www.kurumu-takahama.com/support/detail.php?id=33
https://www.city.tochigi.lg.jp/site/kosodatekyouiku/881.html