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行政代執行事例から見る自治体の空き家対策の現状と課題

issuesのにしのです。
近年、全国的に増加する空き家問題が深刻化しており、行政による建物の解体「行政代執行」の事例が増えてきています。この記事では行政代執行に焦点を当て、その内容や行政代執行が行われる背景、空き家が自治体の負担になる問題について言及しています。ぜひ最後までお読みいただき、地方自治体が抱える空き家問題への解決策として、行政代執行のあり方について考える際の参考としてご活用ください。

増加する空き家問題に対する行政代執行とは

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行政代執行とは、空き家放置が深刻化する中、自治体が所有者の代わりに空き家問題に介入できる権利のことを指します。1998年から2018年までの20年間で空き家は1.5倍に増加しています。これらの空き家は老朽化し、周辺環境に悪影響を与える可能性が高く、対処が喫緊の課題とされています。

国は空き家対策特別措置法を2015年に施行し、自治体に空き家への立ち入り調査や指導、勧告、撤去命令などの権限を与えました。特に、そのまま放置すると保安上や衛生上に問題を引き起こす可能性が高い「特定空家等」に対し、自治体は所有者に適切な措置を指示できます。

行政代執行は所有者が改善を拒否した場合に行われます。これには樹木の伐採やゴミの撤去、場合によっては建物の解体も含まれます。その費用は所有者に後日請求され、支払われない場合は財産の差し押さえや公売が行われます

空き家問題に対する行政代執行は、所有者の責任を追及し、社会全体の安全と環境の保護を図る重要な手段です。空き家問題の解決に向けた一歩として、行政の積極的な介入が行われています。

行政代執行が行われた事例

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過去の行政代執行の中から、北海道旭川市、千葉県柏市、そして新潟県十日町市の事例を取り上げます。これらの事例について詳しく見ていき、執行された背景や、各自治体が複雑な問題に対しどのようなアプローチを行ったのかを探ってみましょう。

北海道旭川市の事例

2008年頃、近隣住民からの通報により、外壁が剥落しているなど管理不全状態の空き家が確認されました。市は所有者に対し建物の解体や安全対策を促してきましたが、経済的理由から放置。その結果2017年3月に積雪により屋根の一部が崩落し、周辺住民や通行人の安全が脅かされました。

建物の倒壊が避けられないと判断され、市は2017年12月に行政代執行を決行しました。建物の撤去が行われ、周辺住民や通行人の安全が確保されました。撤去費用は約410万円かかり、その費用は土地の差し押さえと公売によって回収されました。

千葉県柏市の事例

2003年に法人事業者が業務縮小のために移転し、その後建物は管理不全な状態で放置されていました。この状況は2011年の東日本大震災後さらに深刻化。外壁や屋根の一部が崩落していることが確認されました。

市は所有者に対し、2011年から再三にわたり建物の撤去を働きかけました。しかし所有者は経済的な事情を理由に放置を継続。建物はJR常磐線や通学・通勤路に面しており、周辺住民に対する緊急性が極めて高いと判断され、2017年4月に行政代執行が実施されました。

建物の撤去にかかる費用は約1,040万円であり、差し押さえと公売によって部分的に回収されました。

新潟県十日町市の事例

市は管理不全が続く建物に対し、県外在住の所有者に適正な管理を指導していました。しかし2015年1月には屋根の一部が崩落。同年10月には所有者も亡くなり、建物の放置が続きました。市は建物の放置が市道を通る人々や隣家に危害を及ぼす危険性が高いと判断しました。

居住地の抵当権者が相続財産管理人を申立て、強制債権として2017年1月に行政代執行を実施。撤去費用は約270万円に上り、相続財産管理人が持つ他の土地も差し押さえ、公売手続きが行われました。

実は空き家の割合に対し行政代執行数は少ない

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国土交通省の発表によれば、2018年度の空き家の数は全国で約350万戸に上りますが、自治体の行政代執行は合計で69件しか行われていません。この数は問題の深刻さと乖離しているように思えますが、問題を放置しているわけではなく、自治体の努力によるものです。

問題を引き起こす可能性が高い「特定空家等」に認定された物件は、自治体が費用を負担して対処する必要が生じます。そのため、自治体は所有者との連携を図り、建物が放置されないよう適切なメンテナンスを行うよう促しています。その結果、多くの所有者が責任を持って空き家の管理を行っています。

空き家問題の解決は単に行政代執行で壊すというものではなく、所有者との連携を通じて問題解決を促進することが自治体の役割となるでしょう。

所有者不明の空き家は「略式代執行」により自治体の負担に

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通常の行政代執行は持ち主の税金債務として扱われ、財産の差し押さえなどによって費用の回収が行われます。しかし、現実には度重なる相続などにより、所有者・管理者が不明となっている空き家が存在します。

持ち主が不明な空き家も、周辺地域に悪影響を及ぼすことは同じです。この場合「略式代執行」と呼ばれる手続きにより、自治体は空き家の撤去などを行う権利が認められています。しかし、実際に略式代執行が行われる場合、所有者が特定できないため費用は自治体が負担します。

財産管理人制度を活用して土地を取得・売却し、費用に充てることもできますが、まずは所有者が特定できない・管理されていない空き家自体を増やさないようにする働きかけが重要です。

自治体には行政代執行へ至らないための努力が求められる

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この記事では、行政代執行に焦点を当て、その内容や事例について解説してきました。空き家問題が深刻化する中、行政代執行は自治体が空き家問題に対処する手段の一つとして注目されています。

しかし、空き家問題の解決には単なる解体だけでは不十分です。自治体は、所有者とのコミュニケーションを図り、空き家の適正な管理を促すための努力が求められます。特に、空き家になりそうな物件を相続する予定の人々や、空き家の使い道が分からない所有者に対する広報活動や相談窓口の充実が重要です。

所有者に責任があることを大原則としつつ、自治体も協力して空き家対策に取り組むことで、問題の適正化につながっていくでしょう。自治体は今後も空き家問題に真剣に向き合い、所有者と連携して解決策を模索していくことが必要です。

【参考資料】
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001518774.pdf
https://www.mlit.go.jp/common/001239420.pdf