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学校でのプール授業減少の背景とは|施設維持費・熱中症・教員負担

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近年、学校でのプール授業回数が減少しているように感じる方も多いのではないでしょうか。その背景には、施設の老朽化、気候変動、教育現場の働き方改革など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。本記事では、プール授業回数減少の現状と理由、そして今後の展望について詳しく解説します。

学校でのプール授業実施が減っている現状

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実際に、自校でプール授業を実施している学校は減少傾向にあります。その主な要因として、全国的に学校のプール施設そのものが廃止されている現状が挙げられます。1996年度には約2万8000校あった小中学校のプールが、2018年度には約2万1000校まで減少。この12年間で約7000校のプールが廃止されたことになり、現在もその流れは続いています。

このプール廃止の背景には、老朽化による修繕費用と維持管理費の負担増が挙げられます。多くの学校プールは1970年代から80年代前半に整備されたものであり、老朽化が著しい状況です。プールを建て替えるには、一例として1億5000万円以上の費用が必要となり、維持管理費も年間約150万円必要です。さらに水質管理や清掃、修繕などの費用も加わります。

ある自治体では、今後50年間学校でプール設備を保有する場合、維持費、改修費などが計約117億円に達すると試算されました。財政難に直面する自治体にとって、この負担は看過できません。

学校でのプール授業実施が減っている理由

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また、プール保有を維持している学校でも授業回数は減少傾向にあります。かつて年間15回程度あったプール授業が、現在では5〜6回程度に減っているケースも報告されています。なぜプールを保有している学校でも授業回数が減少しているのでしょうか?主な理由として、近年の熱中症リスク増大と、教員の負担増が挙げられます。

熱中症のリスク増大

近年の猛暑により、屋外プールでの授業中に熱中症になるリスクが高まっています。日本水泳連盟は、暑さ指数(WBGT)が31℃以上の場合、原則としてプール授業を中止するよう指導しています。

暑さ指数(WBGT)とは、熱中症予防を目的として1954年にアメリカで提案された指標です。気温、湿度、日射・輻射の3つの要素を考慮して算出されます。この指標は、人体と外気との熱のやりとりに着目しており、単なる気温よりも熱中症のリスクを正確に評価できるとされています。

WBGTの値と熱中症リスクの関係は以下のようになっています。

  • 31℃以上:危険(原則として運動中止)
  • 28〜31℃:厳重警戒(激しい運動は中止)
  • 25〜28℃:警戒(積極的に休息)
  • 21〜25℃:注意(適宜休息)

具体的には気温35℃以上、水温+気温が65℃以上になった場合、プール授業は原則中止とされています。そのため、7月や8月の猛暑日には授業が実施できないケースが増加しています。また、ゲリラ豪雨や集中豪雨といった異常気象増加も、屋外プールの使用を制限する要因となっています。

教員の負担増加

プール授業の準備、後片付け、水質管理は、教員にとって大きな負担となっています。具体的には、毎朝の水質チェック、プールサイド清掃、水温管理、授業中の安全管理など、多岐にわたる業務をこなす必要があります。

さらに、水泳指導には専門的な技能と注意が求められます。教員1人で複数の児童生徒を指導し、同時に安全を確保するのは不可能です。最低でも1人が指導、もう1人が監視を行うため、少なくとも2人の教員配置が不可欠です。

暑い日が続く時期にはこまめな水質検査や清掃が必要となり、土日を含めた毎日の管理が求められることもあります。本来の教育業務以外のこうした負担は、授業準備や生徒指導といった本来の業務時間を圧迫しています。

プール授業を外部委託するという選択肢

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プール授業の学校内実施が困難化していることを受け、近年多くの自治体が外部委託を検討しています。具体的には、民間のスイミングスクールやスポーツクラブに授業を委託するケースが増加しています。プール授業を外部委託することには、以下の5つの利点があります。

コスト削減

学校側でプールの維持管理や改修を行う必要がなくなり、大幅なコスト削減が期待できます。ある自治体の試算では40年間で約21億円の削減が可能とされ、学校で修繕して使用し続ける場合と比べて約6割のコストカットを実現できます。

専門的な指導

プロのインストラクターによる質の高い指導を受けられるため、児童生徒の泳力向上や水泳への興味関心が高まります。能力別にグループ分けを行い、それぞれのレベルに合った指導をすることで、個々の授業満足度も向上します。

天候に左右されない

屋内プールを利用することで、天候に左右されずに安定した授業実施が可能になります。雨天や猛暑、冬季であっても計画的に水泳指導を行え、熱中症リスクも大幅に低減できます。

教員の負担軽減

プールの管理や水泳指導の負担が教員にかからなくなるため、他の教育活動に注力できるようになります。

民間施設の有効活用

平日の午前中など、一般利用者が少ない時間帯に学校がプールを利用することで、施設の稼働率向上にも貢献します。

プール授業を外部委託する際の課題

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プール授業の外部委託には多くのメリットがある一方で、解決すべき課題もあります。

移動時間

学校から外部施設までの移動時間がネックとなります。遠方の施設を利用する場合、往復1時間以上かかるケースもあり、授業時間の確保が困難になる可能性があります。また、移動のためのバス代などの追加コストが発生する場合もあるでしょう。

施設の確保

児童生徒数の多い地域、特に大都市圏において、委託先の施設を確保することが難しい現状があります。全ての学校の要望に応えられるだけの民間プール数がない自治体も多く、根本的な課題となっています。

成績評価の情報共有

外部のインストラクターが指導を行う場合、成績評価のための情報共有が課題となるでしょう。学校の教員が適切な評価を行うためには、外部指導者との緊密な連携が必要です。評価基準の統一や、詳細な指導記録の共有など、より丁寧な情報交換の仕組みを構築することが求められます。

学校プール授業の未来を見据えて

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学校のプール授業は、子どもたちの健やかな成長にとってかけがえのないもの。水泳を通して、体力向上や協調性、水難事故への備えなどを学ぶことができます。変化する社会環境に適応しながら本質的な価値を守り、さらなる発展を目指すことは、これからの教育おける重要な課題と言えるでしょう。

地域住民の理解や民間施設の協力を得ながら、最適な解決策を模索していくことが求められています。この記事が、お住まいの地域でのプール授業の在り方を考えるキッカケとなれば幸いです。

【参考資料】
公立小中学校の水泳授業 24校が外部委託 教員不足などで.NHK.2023
拡大するプール授業の民間委託.京都新聞.2023
水泳の授業、民間への委託進む 公立小中学校で 1割実施.朝日新聞デジタル.2023
学校からプールが消える? 水泳授業の民間委託や外部施設利用が増加.TBS NEWS DIG.2023
熱中症の予防対策(プール).education.saga.jp.2019