世界の教育ICTを徹底リサーチ|海外事例から学ぶ有効な取り組み
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日本でもICTを活用した学習環境の構築が進む中、海外の先進事例は重要な示唆を与えています。この記事では、フィンランドやデンマーク、スウェーデン、エストニア、アメリカなど、教育先進国の取り組みを紹介します。これらの国々では、教育制度から家庭でのICT活用まで包括的なアプローチが行われており、その成果は明らかです。ぜひこの記事を通じて日本のICT環境整備における課題や解決策を見つけ、世界に負けない教育ICT化を目指す参考にしていただければ幸いです。
立ち遅れている日本ICT教育の実態
日本のICT教育は、世界的な動向に比べて明らかに後れを取っています。2018年に行われた経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、学校外でパソコンを使って宿題する生徒の割合は日本でわずか8.1%にとどまる一方、諸外国では平均して66.5%に達しています。また、学校におけるデジタル機器の使用時間も最下位であり、日本のICT教育が立ち遅れている現実が浮き彫りになりました。
他国とのICT格差が明らかになったことを受けて、文部科学省は2019年に新しい学習指導要領で初めて「ICT教育」に言及しました。その結果GIGAスクール構想が提唱され、国全体がICT教育の推進に向けて動き始めました。
日本のICT教育は10年以上も後れを取っていると言われていますが、政府、教育機関、そして社会全体が連携し、積極的かつ効果的な取り組みを行うことで、日本の教育現場でも世界と競争できる人材を育成できるはずです。
他国の先進事例から学ぶことは非常に重要であり、経験やノウハウを取り入れることで急速な改善が期待できます。各国の事例を参考にし、日本も競争力のある教育環境の構築を目指しましょう。
フィンランドの事例
フィンランドの教育は世界的に注目されており、OECDが行う「15歳児童の学習到達度調査」では複数年にわたり1位を獲得。読解力や科学的リテラシーなどの複数の分野において世界トップレベルの学力を誇示し、ICTによる教育効率化が関心を集めています。
フィンランドの教育は生徒の自主性を重んじる「学習者中心の教育」を理念としており、開かれた教育環境作りと合わせながら、先進的なICT環境整備を進めています。2015年の段階で、フィンランドのICT活用状況は90%を超えています。
国の政策として進んでいるクラウド・プラットフォームの「Dream school」とデジタル教材プラットフォームの「EduCloud Project」では、全ての児童・生徒が平等に教育ICTを享受できる環境が整備されています。
特に「Dream school」は、学習成果物の共有やさまざまな企業サービスとの連携が可能なオープンソース型のプラットフォームとなっており、学習者用端末の種類を問わず利用が可能です。BYOD(私用端末利用)も認められており、学習における日常的な情報端末の活用が進んでいます。
また、フィンランドでは子供に早くからスマートフォンを与える傾向があり、7歳までに7割近くの子供がスマートフォンを保有しています。学校側も持ち込みを禁止するといった策は取らず、むしろスマートフォンを活用した学習を行うようになっています。教育において時代の変化に合わせたツールを使うことが当然とされ、その結果、効率よく学ぶための学習用ツールとして広く活用されています。
デンマークの事例
デンマークでは2012年以降、小中学校におけるデジタル導入が本格化し、ICT環境整備に向けた多様なプロジェクトが進行しています。例えば、学習プラットフォーム構想である「User Portal Initiative」の具体化や、教師へのデジタル教育の推進など、幅広い取り組みが行われています。
「User Portal Initiative」では、児童・生徒に対し一貫した教育ICTサポートを提供することを目的とし、統合プラットフォーム機能やUNIログイン機能などが開発されました。これにより教師は授業ごとに児童・生徒のグループを作成し、デジタルツールへのアクセス権を簡単に付与できるようになりました。また保護者も学校の情報にアクセスし子供の学習状況を把握することが可能になり、学校・家庭間での学習状況の共有ができます。
教師側の能力向上にも積極的で、教師ネットワークの設立や、「Project Professional Capacity」というプロジェクトによるITスキルの強化などが行われています。学習プラットフォームやデジタル学習リソースなどの”アナログ教育のデジタル化”だけでなく、ロボット、3Dプリンティングなどの新技術までがスキル開発の範囲に含まれます。
デンマークの家庭も幼少期からデジタル端末を与えることに肯定的であり、子どものICT機器普及率は高く、政府はBYODを前提としたICT環境整備を進めています。使い慣れている機材は操作のサポートが必要なく、学校現場は持ち込みできない生徒の利用を保証するだけで良いので、結果的に教師の負担軽減・予算節約に貢献しています。
スウェーデンの事例
スウェーデンの教育政策では、一人一台の教育用端末の導入を推進しています。地方分権型のスウェーデンでは、自治体が教育予算を決定する権限を持ち、国の政策介入や助成金はありませんが、2010年以降自治体レベルで一人一台のICT活用プロジェクトが進み、多くの自治体が積極的な活動を展開しています。
ソレントゥナ市では、2013年までに一人一台の教育用端末を配備し、紙の教科書をすべて置き換える施策を実行しました。最初は3つのモデル校からのスタートでしたが、2013~2014年には市内全校での一人一台の教育用端末運用が実現しました。教科書や問題集のコンテンツはすべてPDFで配布され、紙媒体の完全廃止が達成されました。
スウェーデンは教育ICTの先進国として知られていますが、意外にも他の国と比べてBYODの浸透が低い傾向にあります。学習に必要なものは学校が提供するという方針が根強く、ICTも同様に学校が提供する方針を取っています。学校側は端末の管理を徹底し、端末の持ち帰り学習も原則的には高学年のみとし、適切な指針を設けています。
生徒の学びやすさや教育の効果を高めるという同じ目標を持ちながらも、各国でアプローチに多様性が生まれていることが興味深い点です。スウェーデンの取り組みは、自国に合った最適解を考えるという指針になる事例と言えるでしょう。
エストニアの事例
エストニアは、世界でもっともデジタル活用が進む国の一つです。99%の公共サービスがオンラインで提供され、国民の44%がインターネット投票しています。その背景には、天然資源などを持たない小国としての立場があります。限られた資源で安定した国を築くため、1990年代後半からインターネットの活用が進められてきました。
すべての学校で教材がデジタル化し、フリーWi-Fiが利用できる環境が整えられています。これにより、教育の地域格差や経済的な教育格差を完全に取り除きました。エストニアのICT教育の成果は顕著で、国際学力調査「PISA2018」では、数学・科学・読解の3科目すべてでエストニアはヨーロッパ1位となっています。世界全体で見ても、総合スコアでシンガポールと中国に次いで高い総合点を獲得しています。
また、生徒・教師・保護者は「eKool」という管理プラットフォームによりすべてオンラインでつながっており、すべての関係者のコミュニケーションがオンラインで一元化されています。20年以上前から完全ペーパーレスを実現させているこのシステムは、現在100%の学校で利用されており、教師のデスクワークを毎日45分短縮させる効果も明らかになっています。
アメリカの事例
アメリカのICT事例では、教育におけるあらゆる階層での革新的な取り組みが注目されています。その一つが「Teach to One: Mathプログラム」です。非営利団体が運営するこの教育プログラムは、データ分析に基づいて個々の生徒に最適化された学習を提供しています。2009年にニューヨーク市で開始され、現在は5つの州・15の学校に広がり、6千人の生徒を対象に実施されています。
特徴的なのが、一人ひとりに最適化された時間割と教材・学習方法を記載した”プレイリスト”を提示してくれることです。Teach to One: Mathプログラムは圧倒的な成果が確認されており、8学年においては3倍以上もの成績向上を実現させました。
教材の流通においても革新が起こっています。「Teachers Pay Teachers」は、教員が自作した教材を販売・配布するプラットフォームです。このプラットフォームにより、教員同士の情報交換が促進され、他の教員の事例を参考にすることも簡単になりました。その結果、質の高い教材が広く共有されるようになりました。
現在100万以上のコンテンツが提供され、340万人以上が利用登録しています。高い評価を受けた教材は販売収入を得られ、1千ドル以上を売り上げる教員も排出されており、教員のモチベーション向上にもつながっています。
オンライン学習については無料のMOOCサービスである「Khan Academy」が提供されています。初等中等教育から高等教育まで幅広いコースが提供されており、月間1千万人が利用しています。豊富な教材を自分のペースで学習できるだけでなく、リアルタイムで進捗状況を把握し、適切な教材を提供することが可能です。特に地方の公立校や学習障害のある子供たちにとっては、教育の格差を解消し、公平な学習機会を享受する重要な役割を果たしています。
海外の先進事例を有効活用するためには
各国の教育ICT環境を参考にする際、単に機材や環境構成だけを考えるのではなく、それぞれの国の教育制度やカリキュラム、授業スタイル、地域の文化なども考慮する必要があります。
日本における教育ICTの成功には、ハード面の整備だけではなく、長期的な視野での利用計画が必要です。コンテンツ作成や授業プランの見直し、教育者や提供者の意識改革も不可欠です。
ICT教育を推進するには、ベンダーや教材の会社も関与するため、国民全体がリテラシーを向上させる必要があります。このような取り組みには時間がかかりますが、効果的な学習環境を提供するためには欠かせない働きかけです。海外の先進事例を参考にしつつ、国内の状況に合わせた取り組みを行っていきましょう。
世界に負けない教育ICT化を目指して
この記事では、フィンランドやデンマーク、スウェーデン、エストニア、アメリカの教育ICT化に焦点を当て先進事例を解説して来ました。これらの国々では、教育ICT化が包括的なアプローチで推進され、その成果が明らかになっています。
デジタルネイティブである日本の子どもたちは既にITリテラシーを身に付ける能力を十分に持っており、彼らが将来的にグローバルな競争力を発揮できるよう支援する必要があります。
この記事で解説した先進国の取り組みを参考にし、日本の教育ICT化における課題や解決策を見つけていただければ幸いです。世界に負けない教育ICT化を目指し、その一助としてこの記事を活用してください。
【参考資料】
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/school/content/files/ict_utilization/reort_05.pdf
https://www.soumu.go.jp/main_content/000311276.pdf
https://www.soumu.go.jp/main_content/000094520.pdf